COLUMN
PODACST #007 感覚運動科学とストレングストレーニング ゲスト:近藤拓人さん
ストレングストレーニングに感覚運動科学を掛け合わせると、何が変わるのか。近藤さんが語る「筋出力を脳が決定する」という視点 この記事のもとになったポッドキャストはこちらからお聴きいただけます:エピソードを聴く パフォームベタージャパンが普段お付き合いしているトレーナーや関係者をお招きして、施設のこと、専門知識、セミナー活動まで幅広くお話を伺うポッドキャスト。 今回はAZCARE代表であり、オンラインアカデミーAZCARE ACADEMYやオンラインサロンPLAZ+、そして日本最大級のパーソナルジムNEXPORTを運営する近藤拓人さんをゲストにお招きしました。 パフォームベタージャパンでは昨年、近藤さんに感覚運動科学の基礎をテーマに計5回のウェビナーにご登壇いただきました。今回はその派生版として「ストレングストレーニングに感覚運動科学をどう活用するか」というテーマで対談しています。近藤さんといえば体性感覚・視覚・前庭覚といった感覚系の話というイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、近藤さん自身が「外部負荷を用いたストレングストレーニングは絶対外せないポイント」と言い切るように、この分野は感覚運動科学と切り離せない関係にあります。その接点を解説したのが今回の内容です。 近藤さんについて 近藤さんはAZCAREおよびAZCARE ACADEMYの代表を務め、日本最大級のオンラインアカデミーとオンラインサロンPLAZ+を運営しながら、パーソナルジムNEXPORTも経営しています。専門分野は感覚運動科学で、大学院でもこの分野を学んだ後、現場指導と教育活動を並行して続けてきました。パフォームベタージャパンのウェビナーにはこれまで合計5回登壇しており、今回が6回目となります。 感覚運動科学とは何か——まずおさらい 近藤さんが専門とする感覚運動科学は、「運動の成り立ちを感覚神経系と運動神経系の二つで理解し、現場指導に応用する」分野です。大学時代に徒手療法からボディビルまで幅広く手を出してきた近藤さんが最終的にたどり着いた領域で、「運動指導者にとっての究極の学問」と表現しています。 この分野の面白さは、用途の広さにあります。インプットからアウトプットへのサイクルを評価・介入することで、痛みや不調の改善(リハビリ)にも、体づくりにも、筋力・パワーの向上にも、競技文脈でのパフォーマンス発揮にも活かせると近藤さんは言います。今回はその中でも特に高強度のストレングストレーニングへの応用にフォーカスしています。 近藤さんが提唱する5つのブロック NEXPORTでもAZCARE ACADEMYでも根幹として据えているのが、近藤さんが「理想の運動療法の形」と呼ぶ5つのブロックです。 トリートメント:体の状態を整え、運動しやすい状態をつくる。主に徒手療法や物療を用いたアプローチ。 コレクティブ:悪い運動パターンや過活動・低活動の筋を是正する。呼吸エクササイズ、ピラティスエクササイズ、感覚統合エクササイズなどが中心。 ストレングス:外部負荷を用いた高強度トレーニング。今回の主題。 ムーブメント:コレクティブで整えた動きとストレングスで高めた筋機能を、実生活や競技につなげる総仕上げ。近藤さんは「障害物を使った移動訓練」を最強と表現していた。 エアロビック:有酸素運動。 これら5つが有機的につながることで一番いいプログラムが完成するという考え方で、今回のテーマはこの中の「ストレングス」ブロックです。 ストレングスブロックの目的は3つ 感覚運動科学を知った上でストレングストレーニングを処方することの意味を理解するには、まずストレングスブロックが何を目的とするかを整理する必要があります。近藤さんは目的を3つに分けて説明しました。 1つ目は体づくり。絶対的な筋量が足りない状態では大きな筋力やパワーを発揮することは難しいため、まず筋量を増やすことが優先されます。この段階では外部負荷を使ってオールアウトさせていくようなトレーニングが有効です。 2つ目は筋出力(パワー)の向上。これも重量依存性の高い要素であり、ピラティスのような低負荷のエクササイズでは限界があります。外部負荷を使って筋力・パワーを引き上げることが重要です。 3つ目は競技文脈でのパワー発揮。ここがアスリートに特有の目的で、筋量が多く筋力も高いのに競技パフォーマンスに転移できていないケースへの対応です。適切なタイミングと適切なメカニクスでパワーを発揮できることが求められます。 近藤さんは「2つ目と3つ目において、感覚運動科学が特に活きる」と言います。 「筋出力を脳が決定している」という視点 ストレングストレーニングの文脈で感覚運動科学が登場する核心は、ここにあります。 筋出力を決めるのは最初は筋断面積(筋量)です。筋量が多い人ほど筋出力は大きくなる。しかし、ある程度の筋断面積が確保されると、そこから先は神経科学的な側面がすごく大きくなってくると近藤さんは言います。...
自律神経評価とレジリエンスを養うための栄養と運動(川合 智先生)|ウェビナーレポート
今回は、先日開催した川合 智先生による無料ウェビナー「自律神経評価とレジリエンスを養うための栄養と運動」の内容の一部をご紹介します。 川合先生は10/17〜18に開催するパフォームベタージャパンサミット2026にもご登壇いただきますのでご検討中の方はぜひご確認ください。 ■テーマ:自律神経評価とレジリエンスを養うための栄養と運動 ■開催日:2026年7月3日 ■講師:川合 智 (日本統合療法株式会社 代表取締役) レジリエンスを支える「自律神経」の役割 レジリエンスとは、ストレスや負荷を受けても適応し、回復しながら再び高いパフォーマンスを発揮する力のことです。アスリートだけでなく、日々忙しく働くビジネスパーソンや健康づくりを目的とする方にとっても重要な考え方です。 その鍵となるのが、自律神経の働きです。自律神経を「アクセル(交感神経)」と「ブレーキ(副交感神経)」に例えながら説明いただきました。活動するためにはアクセルが必要ですが、安全に走り続けるためにはブレーキも欠かせません。私たちの身体も同様に、交感神経と副交感神経が適切なバランスで働くことで、運動や仕事のパフォーマンスだけでなく、疲労からの回復もスムーズに行われます。「どれだけ頑張れるか」だけではなく、「どれだけ回復できるか」がレジリエンスを高める上で重要です。 自律神経は「評価」できる時代へ 自律神経は感覚だけで判断するものではなく、HRV(心拍変動)を用いて客観的に評価できます。近年ではApple WatchやOura RingなどのウェアラブルデバイスでもHRVを確認できるようになり、日々のコンディションを把握しやすくなっています。 また、専用機器を活用することで、自律神経の状態や回復力をより詳細に評価し、一人ひとりの状態に応じた介入方法を検討することも可能です。「何となく疲れている」という感覚だけに頼るのではなく、客観的な指標を活用することで、より適切なコンディショニングにつなげることができます。 レジリエンスを高めるために大切なこと 自律神経を整えるために重要なのは、いきなり運動量を増やすことではありません。 食事 → 睡眠 → 生活習慣 → 運動 という順番で土台を整えることが重要性です。 慢性的な疲労を抱える方では、まず「回復できる身体」をつくることが最優先になります。その上で、自律神経の状態に合わせて運動を取り入れていくことで、より良いコンディションづくりやパフォーマンス向上につながります。 また、睡眠不足や慢性的なストレス、栄養状態の乱れ、スマートフォンの長時間利用など、日常生活のさまざまな要因が自律神経に影響することあります。特別な方法を取り入れる前に、まずは毎日の生活習慣を見直すことが、自律神経を整え、レジリエンスを高める第一歩になります。 サミットでは評価から介入までをより実践的に学ぶ...
ソフトトスメディシンボールの選び方と特徴|型崩れしない理由と重量別の活用法
メディシンボールトレーニングでトレーナーや選手が感じる3つのストレス ウエイトトレーニングと並び、身体の連動性や爆発的なパワー(爆発力)の獲得を目的として実施される「メディシンボールスロー」。プロチームからパーソナルジムまで幅広く活用されていますが、現場では以下のようなお悩みの声をよく耳にします。 使い込むうちにボールが変形し、投げにくくなる(耐久性の問題) 汗や衝撃で滑りやすく、キャッチ時に落として怪我をしそうになる 重量を変えるたびにボールのサイズが変わるため、抱え込むような余計なフォームの崩れが発生する エクササイズ本来の目的とは異なる部分でトレーナーやアスリートがストレスを感じたり、怪我のリスクを気にしたりすることは、トレーニング環境において最も避けたいポイントです。 PERFORM BETTER製「ソフトトスメディシンボール」が現場で選ばれる3つの理由 PERFORM BETTER(パフォーマンスベター)のソフトトスメディシンボールは、トレーニングの目的を邪魔せず、アスリートが安心して100%全力を出し切れる環境をサポートするために設計されています。 1. 全11種類の重量(1.8kg〜13.6kg)が「直径約35cm」で統一 一般的なメディシンボールは重くなるとサイズも大きくなりますが、本製品は全重量で直径約35cmに統一されています。重量変更時にサイズ差による「持ちやすさの違い」や「不自然な負荷・フォームの崩れ」を生ませません。 2. ハードに使い込んでも型崩れしにくい「ソフトシェル構造」 ボール内部のウエイトバランスを維持するソフトシェル構造を採用。壁投げや高所からのスローなど、激しいワークアウトを繰り返しても型崩れしにくく、長期間にわたり初期の扱いやすさを維持します。 3. 衝撃を吸収し、滑りにくい高耐久な表面素材 滑りにくく掴みやすい頑丈な表面仕上げになっており、キャッチ時の手元への負担や衝撃をしっかり吸収。適度な跳ね返り(バウンド)に抑えられているため、屋内でのメディシンボールスローも安全かつストレスなく実施できます。 一般的なメディシンボールとの違い(比較表) 項目 ソフトトスメディシンボール ハード/ゴム製メディシンボール 主な用途 爆発的パワー向上、壁・床へのスロー 単純なウエイト付加、跳ね返りを利用した動き サイズ(直径) 全重量で同一(約35cm) 重量に応じて大きくなる...
ソフトトスメディシンボールの選び方と特徴|型崩れしない理由と重量別の活用法
ケトルベル指導の違和感や手首の痛みは「器具の設計」が原因?
扱いやすいケトルベルの選び方と構造の秘密 ケトルベルスイングやクリーン、スナッチを指導する中で、以下のような「現場の違和感」に直面したことはありませんか? フォームは正しく指導しているはずなのに、クライアントが「手首の骨が当たって痛い」と訴える クリーンやスナッチのキャッチ時、手元が暴れてしっくりこない チョークを使っても汗ですべりやすい、逆にグリップの凹凸が強く手の皮が剥けてしまう 重量によってハンドルの太さやカーブのつき方が異なり、指導の一貫性が保ちにくい これらの違和感や指導のやりづらさは、トレーナーの指導技術やクライアントのフォームの問題ではなく、実は「ケトルベル自体のプロダクト設計(構造や仕上げ)」が起因しているケースが少なくありません。 今回は、既存の一般的な解説(重量の選び方やダンベルとの使い分け)とは一線を画し、「器具の設計や人間工学的アプローチが、なぜセッションの質や手首の痛みを左右するのか」という現場目線で深掘り解説します。 --- 1. なぜ「器具の設計」が手首の痛みや指導の阻害要因になるのか? ケトルベルは一見すると非常にシンプルな鉄の塊に見えますが、ダンベルとは決定的に異なり「重心が手元から外側へ大きく離れている」という構造的特徴を持っています(※参照:ダンベルとケトルベルの違い)。 特にクリーン、スナッチ、ラックポジション、ターキッシュゲットアップなどでは、動作の過程で「ベル本体が手首の上を旋回・着地する」「前腕の外側に常にウエイトが接地する」状態になります。そのため、わずかな設計の歪みや処理の粗さが、そのままダイレクトに身体へのストレスとなります。 ① ハンドルカーブ(R角度)の歪みと「点の圧迫」 安価な鋳造プロセスで作られたケトルベルは、ハンドルの曲げ角度(R処理)が角ばっていたり、内側のカーブが急すぎたりします。これにより、ラックポジション時に前腕全体へ負荷が分散されず、手首付近の尺骨や橈骨(骨の突起部)に重量が「点」で集中し、強い痛みを誘発します。 ② 表面仕上げ(キャストライン・塗装)の粗さ 鋳造(型に鉄を流し込む工程)の際にできる「継ぎ目(バリ・キャストライン)」がハンドル内側やベル背面に残っていると、スナッチなどの手元で回転させる種目で皮膚を摩擦で痛めてしまいます。また、クリア塗装がツルツルしすぎていると無駄な握力(握り込みすぎ)を生み、前腕の早期疲労の原因になります。 ③ ハンドル径(太さ)の不均一によるバイオメカニクスの崩れ ハンドルの太さが極端に太すぎたり不均一だったりすると、正しい握り込み(※参照:ケトルベルの正しい握り方と解説)が作れず、肩甲帯の安定化(ショルダーパッキング)に必要な神経伝達が妨げられてしまいます。 --- 2. PERFORM BETTER製ケトルベルに凝縮された3つの設計思想 PERFORM BETTER(パフォーマンスベター)の本社(米国)では、トップレベルのストレングスコーチやトレーナーのフィードバックを直接取り入れ、プロダクトの設計変更と改良を重ねてきました。 ポイント①:手の甲と前腕の面で受け止める「人間工学に基づいた曲線ハンドル」 キャッチやラックポジション時に、ベルが手の甲や前腕へスムーズに収まる滑らかなハンドル形状を採用。局所的な圧迫を防ぎ、前腕全体で面として負荷を受け止められるため、骨への痛みを極限まで軽減し、正しい姿勢の保持に集中できます。...
ケトルベル指導の違和感や手首の痛みは「器具の設計」が原因?
パフォーマンストレーニングの本当の目的:Bill Parisi寄稿
日々新たなトレーニング理論が増えていく中で、インプットした内容を日常のクライアント指導にどう活かせばよいのか悩んでいるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。 本メルマガでは、最新のトレーニング理論やそれを現場に活用するために必要な情報をご紹介します。ぜひ、日常の指導にお役立ていただけますと幸いです。 今回は、Parisi Speed School創設者であり、スポーツパフォーマンス分野で長年にわたり世界中のアスリート育成に携わってきた Bill Parisi がPERFORM BETTER本社のブランドサイトに寄稿した「The Real Purpose Of Sports Performance Training」をご紹介します。 スポーツパフォーマンストレーニングの本質は、単なるエリートアスリートの育成ではなく、子どもたちの自尊心や人生そのものに良い影響を与えることであると語るBill Parisiのコラムを、ぜひ最後までご一読ください。 スポーツパフォーマンストレーニングの本当の目的 エリートアスリートを指導したいという願望 スポーツパフォーマンス業界で23年間キャリアを積む中で、私はさまざまな理由から何百人ものトレーナーにインタビューをしてきました。そうしたトレーナーたちに共通していたのは、エリートアスリートを指導したいという願望でした。彼らにとって、それは自身の知識と経験を試す究極の挑戦であり、成功すれば、より多くのエリートアスリートを指導し、業界全体に名声を築くことにつながる可能性を秘めていたのです。 私は、一流アスリートと仕事をし、トレーナーとして培ってきたスキルを活かしたいという気持ちを十分に理解しています。それは、アスリートのパフォーマンス目標達成を支援するためだけでなく、エリートアスリートと呼ばれる比較的限られた層の中でも、自分が影響力を持つことができるということを、自分自身に証明するためでもあるのかもしれません。 一流アスリートとの経験 長年にわたり、私はあらゆるスポーツのディビジョン1やプロアスリートを数多く指導する機会に恵まれました。実際、私の最初のクライアントの一人は、ニューヨーク・ジャイアンツの元フランチャイズ・クォーターバック、Phillip Simmsでした。私のキャリアはそこから飛躍的に発展し、Phillip Simmsは現在もParisi Speed School社のナショナル・スポークスパーソンを務めています。ですから、この一流アスリートには大変お世話になったと言えるでしょう。 スポーツパフォーマンストレーニングの本質とは フィットネス業界の内外を問わず、多くの人が、スポーツパフォーマンストレーニングの本質は、エリート高校生、大学生、そしてプロアスリートを育成することのみに、あるいは主にそこにあると考えていることに、私は気づきました。しかし、スポーツパフォーマンス業界で長年経験を積んできた私は、異なる結論に至りました。それは、幼い頃から子どもたちの自尊心を育むことであり、そうすることで彼らは競技場だけでなく、学校、そして最終的には人生のあらゆる面で、より良い成果を上げられるようになるということです。 コーチが人生に与える影響...
PODACST #006 学んだ専門知識、技術を現場で活かす方法 ゲスト:桂良太郎さん
知識は現場で生きてこそ。桂良太郎さんが語る「統合された体系」と「動機付け」と「システム」 この記事のもとになったポッドキャストはこちらからお聴きいただけます:エピソードを聴く パフォームベタージャパンが普段お付き合いしているトレーナーや関係者をお招きして、施設のこと、専門知識、セミナー活動まで幅広くお話を伺うポッドキャスト。 今回はBest Performance Laboratory代表の桂良太郎さんをゲストにお招きしました。 学んだ専門知識を現場でどう活かすか——このテーマは、知識量が増えれば増えるほど難しくなっていくように感じるものです。パフォームベタージャパンがこのエピソードをお届けするのは、桂さんの言葉が「知識を統合し、体系として持つことの意味」を、施設運営という実践の文脈からくっきりと照らしてくれているからです。創業から10年以上パフォームベタージャパンのサミットやセミナーに登壇し続けてきた桂さんとの対話は、私たちにとっても多くの気づきをもたらすものでした。 桂良太郎さんについて 桂さんはBest Performance Laboratoryを創業し、野球・サッカー・ゴルフ・サーフィン・ハンドボールなど幅広い競技のアスリート指導に携わりながら、施設外でも多種目のパフォーマンスコーチを歴任してきました。施設ではトップアスリートから健康維持・ダイエット目的の一般の方、さらに術前術後のメディカル対応まで幅広い層を対象としています。同業者向けのセミナー事業としてBest Performance Academyも展開しており、メンターシップエデュケーションプログラムは現在34期まで積み上げてきました。 幅広い対応を可能にするのは「統合されたシステム」 Best Performance Laboratoryの特徴として桂さんが挙げるのが、幅広い対象者に対応できる施設であるということです。トップアスリートの横でジュニアアスリートや部活生が練習し、さらにボディビルダーやシビアな医学的判断を要する術前術後の方までが同じ空間にいる——そういう施設です。 この幅広さを可能にしているのは、統合されたシステムを持っているからだと桂さんは分析します。単一の理論だけでは人間へのアプローチに限界があり、複数の知識を体系化して統合することで初めて多様な状況に対応できるようになる、という考え方です。 知識を活かせない、三つの理由 学んだ知識を現場で活かせないのはなぜか。桂さんはこの問いに対して、整理された答えを持っていました。 まず一つ目は、知識が体系化されていないこと。単一の理論を深く学んでも、それをどう実践に落とし込むかがわからない状態では、現場で行き詰まることが多いといいます。 二つ目は、クライアントへの動機付けの仕方を知らないこと。知識があり、体系化もできていても、クライアントが指導を受けたいと思える形でなければ行動変容は起きない。これはどれだけ優れた内容であっても変わらない原則だと桂さんは言います。 三つ目は、システムがないこと。これらを全部再現性高く結果に結びつけるためには、仕組みが必要です。桂さんはこの三つを「統合された体系化されたものと、クライアントを動機付けできるノウハウと、システム——この三つが揃っていないといけない」と言い切っていました。 なぜ初回に長い時間をかけるのか 施設の特徴的な取り組みのひとつとして、桂さんは初回のSOAP(主観的情報・客観的情報・評価・プランのプロセス)に長い時間を設けていることを挙げました。 その理由として語っていたのが、自己認識と現実のギャップの問題です。桂さんが引用したアメリカのデータによれば、60%のアメリカ人が慢性疾患を抱えており、40%が二つ以上の慢性疾患を持ち、50%が筋骨格系の症状を訴えている。にもかかわらず、81%の人が自分の体や健康状態を良好または極めて良好だと信じているという調査結果があるといいます。 この乖離を本人に認知させることが、行動変容につながる最初のファーストアクションだと桂さんは考えています。だからこそ初回に十分な時間を取って、そのギャップを体感してもらうことを重視しているそうです。 リハビリとトレーニング、トレーニングと競技の境界線 競技特異的なアプローチについて聞くと、桂さんは運動制御理論や運動学習理論、競技への転移(トランスファー)などを2015年頃から学び始めたことを話してくれました。そこから辿り着いた結論が、トレーニングと競技の間に明確な境界線はないという考え方です。 ここまでがフィジカルトレーニングでここからがスキルトレーニング、という線引きはできない。両者はオーバーラップするものであり、だからこそトレーニング施設の中で競技動作に近しい動きや環境を再現できることが重要になってくると桂さんは言います。どの程度考慮しているかという問いへの回答は難しいとしながらも、非常に大事だという認識のもとで、特にトレーニング直後に競技の動きができる環境設定を意識していると話していました。...
横方向への一歩を速くする(九鬼 靖太先生)|ウェビナーレポート
今回は、先日開催した九鬼 靖太先生による無料ウェビナー「横方向への一歩を速くするトレーニング戦略 〜アジリティ・盗塁スタートに応用するCST〜」の内容の一部をご紹介します。九鬼先生は10/17〜18に開催するパフォームベタージャパンサミット2026にもご登壇いただきますのでご検討中の方はぜひご確認ください。 ■テーマ:横方向への一歩を速くするトレーニング戦略 〜アジリティ・盗塁スタートに応用するCST〜 ■開催日:2026年6月25日 ■講師:九鬼 靖太 (大阪経済大学准教授 / 株式会社SPEED-CREATORs代表) 多くの競技に共通する「横方向への一歩」 野球、サッカー、バスケットボール、テニス、ラグビーなど競技は異なっても、試合を決定づける場面では横方向への素早い移動が求められます。 例えば、 ・野球では盗塁や守備の一歩目 ・サッカーでは相手への寄せや切り返し ・バスケットボールではディフェンスのスライド ・テニスでは左右への素早いフットワーク など、競技特有の動きに見えても、「短時間で横方向へ身体を運ぶ」という点では共通しています。ここで重要になるのが、競技ごとの動作だけを見るのではなく、多くの競技に共通する要素を抽象化して考えることです。横方向への一歩を速くするという能力を理解できれば、盗塁やカットイン、ディフェンスなど様々な競技場面へ応用できるだけでなく、ジムで行うトレーニングも競技力向上へ結び付けやすくなります。 このような共通する要素を見つけ出し、競技へ橋渡ししていくことこそ、トレーナーに求められる役割の一つです。 横方向への加速を決める「筋力」と「技術」 横方向への一歩を速くするためには「筋力」と「技術」の掛け合わせが必要です。ここでいう筋力とは、単純に筋肉量ではなく、どれだけ大きな地面反力を生み出せるかという能力です。 その土台となるのは、 ・最大筋力 ・Rate of Force Development(力の立ち上がり率) ・パワー といった要素であり、特に大臀筋やハムストリングス、内転筋群など股関節伸展筋群が大きな役割を担います。そのため、スクワットをはじめとしたベーシックな筋力トレーニングは、横方向への加速能力を高めるためにも非常に重要な基礎となります。...
横方向への一歩を速くする(九鬼 靖太先生)|ウェビナーレポート
PODCAST #005 評価とアプローチをチーム内で統一する ゲスト:根城祐介さん
評価ができても結果が出ない、その正体は「共有」の問題。根城祐介さんが語る、チームで再現性をつくる方法 この記事のもとになったポッドキャストはこちらからお聴きいただけます:エピソードを聴く パフォームベタージャパンが普段お付き合いしているトレーナーや関係者をお招きして、施設のこと、専門知識、セミナー活動まで幅広くお話を伺うポッドキャスト。 今回はActive-Aid Program代表であり、パーソナルジムAID広尾代表でもある根城祐介さんをゲストにお招きしました。 「評価はできるのに、なぜか結果につながらない」—多くのトレーナーが一度はぶつかるこの壁を、個人の経験不足やセンスの問題として片づけてしまいがちです。しかし今回お話を伺った根城祐介さんの考えは違いました。これは多くの場合、評価そのものの問題ではなく「共有」の問題だという指摘です。 パフォームベタージャパンがこの対話をお届けするのは、根城さんの言葉が、個人のセンスに依存しない「再現性のある指導」という考え方を、具体的な手順とともに示してくれているからです。 根城祐介さんについて 根城さんはアメリカでチームに所属してトレーナー活動を行った後、帰国後は日本でフリーランスとして活動。その後、ここ1〜2年で施設の代表という立場に立ち、組織のマネジメントにも携わるようになりました。個人としての活動と、チームを率いる立場の両方を経験してきたからこそ語れる視点を、今回はたっぷりお話しいただきました。 個人と組織、評価の質を分けるもの 根城さんが指摘するのは、個人で活動している場合と組織で動く場合とでは、求められる強さの種類が変わるという点です。個人で活動していると、良くも悪くも全てが自分自身に委ねられます。ある程度「センス」、つまり鋭い感覚に頼ってやっていけてしまう。しかし組織になると、そのセンスが前面に出すぎることがむしろ足を引っ張るケースが出てくるといいます。 組織で強さを発揮するのは、起きている現象を言語化できる人です。なぜこのアプローチをするのかを、上司や部下、同僚に対して言葉で説明できること。これは学んで身につけられるものだと根城さんは明言します。個人で活動していても、結局はクライアントに説明する場面が必ず生まれます。そこを感覚だけで片づけてしまうと、サービスを受けた直後は良くなるけれど、施設を出た瞬間に元のパターンに戻ってしまう、つまり再現性が低い状態になってしまう。お客様への説明を重ねることで、自ずと言語力は磨かれていくという考え方です。 一般のフィットネス愛好家を相手にする場合は、さらに難しさが増します。アスリートであれば「パフォーマンスを上げたい」「怪我を治したい」という目的が明確ですが、趣味としてゴルフやテニス、登山に取り組む一般の方の場合、その動機をすくい上げて言語化する必要があります。 根城さんが運営するパーソナルジムAID広尾には、ゴルフやテニスに取り組むいわゆるアマチュアアスリート層が多く通っており、トレーニングの内容がその人自身の趣味のパフォーマンス向上につながるよう意識的に設計しているといいます。体を鍛えるという言葉だけで片づけず、結果としてQOL(生活の質)が上がることを目指す、という姿勢です。 ズレの本質は「評価」ではなく「評価の解釈」 評価ができるのに結果がついてこない、という違和感を抱えるトレーナーは少なくないと根城さんは言います。その原因について、根城さんは明確な仮説を持っていました。問題は評価そのものではなく、「評価の解釈」にあるという考え方です。 同じ動きを見ても、何を問題として捉えるかはトレーナーによって違ってきます。評価という行為自体は揃っているのに、その解釈がズレることで結果が揃わなくなる。だからこそ、Active-Aid Programでは「原理原則」を重視することを伝えているといいます。「これはこうですよ」という単純化されたメソッドの伝え方をしてしまうと、見るべきポイントが過度に統一化され、イレギュラーなパターンへの対応力が失われてしまう。ゴルフスイングひとつとっても百人いれば百通り違うという前提に立ち、原理原則をチームの共通言語として持つことを大事にしているそうです。 ゴールの置き方についても明確な考え方がありました。森の中でコンパスがずれたら、永久にずれた方向に進み続けてしまう。だからこそ、まずゴール地点を一つに定める。痛みの改善が目的であれば、痛みがなぜ起きているのかを細分化して分析し、ゴールに向けたマイルストーンを立てていく、いわゆるトップダウンの考え方を重要視しているといいます。 予想・把握・評価・改善」という共通サイクル 根城さんが運営するActive-Aid Programでは、社員全員がレベル1・レベル2の研修プログラムを修了した状態で入社します。そこで重要視されているのが「予想・把握・評価・改善」というサイクルです。 予想とはいわゆる初見の段階です。クライアントを見て「肩が下がっているな」といった気づきを得る。次の把握は問診にあたります。見えている状態について、何か思い当たることがあるかを尋ね、そこから深掘りしていく。出てきた回答をもとに評価を行い、改善へとつなげる。画像診断を行っているわけではないからこそ、原因の確率を高めていくフェーズが必要になる、という根城さんの説明には、断定を避ける慎重さがにじんでいました。このサイクルをセッション中ずっと回し続ける感覚を、社員は研修プログラムを修了した時点で身につけているため、根城さんはこの部分に関する追加の社員教育を行っていないといいます。 このサイクルの中でも特に経験値が出やすいのが「予想」の部分だと考えられますが、Active-Aid Programではここに対する工夫があります。採用しているのはプロジェクトベースドラーニング(問題解決型学習法)と呼ばれる手法で、課題に対して受講生同士で意見交換をしながら解決策を探っていく形式です。キャリア30年のベテランから学生まで、経験のばらつきが大きい受講者が混在していても、この学習法によって一人で学ぶよりも速いスピードで気づきを得られる。自分一人では気づけなかったことも、他の受講生の発見から学べる仕組みになっているということでした。 評価とアプローチをセットにする、という現場のルール 実際の施設運営において重要視しているのが、「評価して終わり」にしないことです。評価がどのアプローチにつながるかをセットで成形しておく、という考え方です。例えば腰痛を抱えるクライアントで、初見で肋骨が開いている状態が見えた場合、腹横筋などの活動低下を仮説として、呼吸へのアプローチから入っていく——というように、評価の後に取るべき行動がある程度セットで見える状態にして、現場に送り出しているといいます。 スタッフの指導についても、独特な手法を採用しています。根城さん自身が控室にいて、セッションの様子を音声だけで聞いているそうです。視覚情報に偏りがちな人間の認知特性を踏まえ、聴覚情報、つまり顧客の声のトーンや話す速度、トレーナーの応答の様子から、セッションが盛り上がっているか、お客様が退屈していないかを判断する。そしてその場で得た気づきをフィードバックとして伝えています。何でも話してくれるようにと、社員との距離感を意識的に縮めているという姿勢も伺えました。 施設運営を始めたことで、Active-Aid Programの研修内容自体もアップデートされてきたといいます。現場で実際に起きる出来事、スタッフがつまずくポイント、パーソナリティの違いによる気になる観点の違い——こうした実地の知見が、研修プログラムに反映され、また研修で伝えた言葉がスタッフを通じて現場に還元される。臨床の現場とアカデミックな部分、この両輪が相互に影響し合っているという話でした。...
PODCAST #001 運動指導者における設備、器具の重要性 ゲスト:近藤拓人さん
ハードがなければソフトは育たない。近藤拓人さんが語る「ラボを持つ教育者」という選択 この記事のもとになったポッドキャストはこちらからお聴きいただけます:エピソードを聴く 今回はAZCAREおよびAZCARE ACADEMY代表であり、パーソナルジムNEXPORTを運営する近藤拓人さんをゲストにお招きしました。 パフォームベタージャパンが普段お付き合いしているトレーナーや関係者をお招きして、施設のこと、専門知識、セミナー活動まで幅広くお話を伺うポッドキャスト。 トレーナーが「教育者」として活動を広げていくとき、現場を手放すことはどういう意味を持つのか。そして、なぜ施設を持つことが教育の質に直結するのか。パフォームベタージャパンがこのエピソードをお届けするのは、現場・教育・施設運営という三つの軸を同時に動かしている近藤拓人さんの思考が、現場で悩むトレーナーへの具体的な道筋を示してくれると感じたからです。 近藤拓人さんについて 近藤さんは日本の高校卒業後にアメリカの大学へ進学し、ATC(アスレティックトレーナー)の資格を取得しながら学生スポーツを中心に現場経験を積みました。帰国後は日本の大学院で感覚運動分野の研究を行いながら、フィットネスクラブでの運動指導やプロゴルファー、プロバスケットボールチームのトレーナーを歴任。その後AZCAREを2018年に創業し、現在は教育事業AZCARE ACADEMYの運営と、パーソナルジムNEXPORTでの現場指導を並行して行っています。 「自分の勉強代を稼ぐため」から始まった教育事業 近藤さんがキャリアの初期に持っていた目標は、「日本一のトレーナーになる」というものでした。何をもって一番かという明確な定義はなかったと本人は笑いながら振り返りますが、とにかく主観的に「自分がナンバーワンだ」と言えるようになりたかったと言います。 その延長で人に教える立場になったのも、当初は教育への情熱からではありませんでした。自分の勉強代を稼ぐための手段として講習会を開いていたのが始まりで、「自分が苦労して手に入れた知識を人に伝えることに喜びは感じなかった」と正直に話してくれました。 ところが実際に教え続けるうちに、受講生が現場で活躍する姿や感謝の言葉に触れていくなかで、教育の面白さを実感するようになったといいます。そして自分の関わり方が、一人のトレーナーとしての社会貢献から、教育者として貢献するというかたちにシフトしていった。 なぜ「ラボ」が必要なのか 教育者としてより長く、より大きな社会的インパクトを残すためにはどうすればいいかを考えた時、近藤さんは先人たちを参照しました。そこで見えてきたのが、優れた教育者はラボを持っているという共通点でした。 現場から離れてただ教えるだけになると、現場感が失われる。現場目線の教育ができなくなるだけでなく、技術の開発も難しくなる。近藤さんはこの状態を「教育者としての天井がそこで決まってしまう」と表現します。AZCARE ACADEMYの立ち上げに集中していた約2年間、近藤さんは現場から離れていました。その後、教育事業が一区切りを迎えたタイミングで、自らのラボとなる施設を作ることを決意したといいます。 もう一つの理由として挙げたのが、「人に教えている内容を自分がやっていないのはいかんだろう」という責任感です。自分が検証した上で人に伝えるという姿勢を保つためにも、ラボが必要だった。こうした経緯でNEXPORTが創業されました。 ハードがなければソフトは育たない NEXPORTの設備について話が及ぶと、近藤さんが繰り返した言葉があります。「ハードがなければソフトが育たない」です。 知識があっても、それを実際のプログラムに落とし込む時には環境が必要になる。たとえばピラティスマシンがあることで、自体重のリグレッション(負荷を段階的に落とす作業)ができる。自分の体をうまくコントロールできない人に対して、ピラティスマシンなしでリグレッションしようとすると、選択肢が一気に狭まります。逆に言えば、ツールがあるからこそ発揮できる技術があり、活かせる知識があるということです。 広いスペースがあれば多方向への動きを引き出せる。ストレングストレーニングは適切な外部負荷なしにはある一定のレベル以上の人には対応しきれない。NEXPORTの設備が当初から充実していたのは、こうした思想の直接的な表れでした。 低域値・中域値・高域値すべてを提供する意義 近藤さんが一貫して主張するのが、低域値から高域値まで幅広い強度帯の運動指導を一人のトレーナーが提供できることの重要性です。これは近藤さんがウェビナーやセミナーでも繰り返し用いている表現で、特にトレーニングにおける「中域値」は一般的な言い回しではなく、近藤さん独自の 表現ですが、低・中・高のどの強度帯も指導に欠かせないという考え方の核心を表しています。 身体の深層筋は低域値・リラックスした状態での動きによく反応します。ピラティスエクササイズが効果的とされるのはこのためで、低域値で実施できれば深層筋へのアプローチとして機能します。一方、表層筋はレバーが長く大きなトルクを発揮できる筋であり、高域値のエクササイズに反応します。筋力トレーニングが有効なのはこの理由からです。そして両者の間には中域値が存在し、この領域でのプログラムも機能改善に欠かせないと近藤さんは言います。 対象者の目的 —かっこよくなりたい、痛みから解放されたい、スポーツで成績を残したい— に即したプログラムを作ろうとすると、低域値・中域値・高域値すべてのエクササイズが必要になってくる。「ピラティスをやります」「筋トレをやります」という専門特化は、あくまで提供側の事情での差別化であって、顧客目線の差別化にはなっていないと近藤さんは言います。 提供側のメリットとしても、対象者の幅が広がることでやりがいが増す点を挙げていました。痛みを抱えた患者レベルの方、健康増進を目指すフィットネス層、アスリートと1日に複数の層を見ることの楽しさは、一つのメソッドだけでは得られないと話していました。 また、アスリートと一般の方で「やること」はそれほど変わらないという視点も印象的でした。体の構造は同じで、バイオメカニクス的に効果的な動き方も共通している。レベル設定や強度の分配を調整するだけであって、根本的にやらなければならないことはほぼ変わらないというのが近藤さんの立場です。...
PODCAST #004 トレーナーの栄養指導どこまでやるべき? ゲスト:川合智さん
トレーナーこそ、栄養を学ぶべき理由。川合智さんが語る「人の身体の専門家」という視点 この記事のもとになったポッドキャストはこちらからお聴きいただけます:エピソードを聴く パフォームベタージャパンが普段お付き合いしているトレーナーや関係者をお招きして、施設のこと、専門知識、セミナー活動まで幅広くお話を伺うポッドキャスト。 栄養指導は、栄養士や管理栄養士だけの仕事ではない。そう言われると、少し構えてしまう方もいるかもしれません。「専門外のことを教えていいのか」という不安と、逆に「自分のダイエット経験を根拠に自信満々で話してしまう」というケース。現場のトレーナーには、この両極端が意外と多いようです。 パフォームベタージャパンがこのエピソードをお届けするのは、栄養の知識がトレーナーの活躍範囲を拡げる可能性があるからです。今回は、運動療法と栄養療法を実践し、全国でセミナー・講演活動を行う川合智さんをゲストにお招きし、「トレーナーが実践する栄養指導」をテーマに語っていただきました。 川合智さんについて 川合さんは日本統合療法株式会社の代表を務め、運動療法と栄養療法を土台とした統合療法を指導しながら、様々な慢性不調を抱える方のサポートやアスリートへの栄養アドバイスを行っています。現在は全国でのセミナー・講演活動に加え、パーソナルジム「PMパフォーマンス」も運営。もともとはボクサーとしてのキャリアを持ち、トレーナーとして活動するなかで栄養療法を本格的に学んだという経歴の持ち主です。現在は自身のオンラインアカデミー「栄養の力アカデミー」のほか、AZCARE ACADEMYが提供するオンラインサロン「PLAZ+」、ケンコーTVが主催する「1upアカデミー」、TTEAが展開する症例紹介コンテンツ「THE SHOWCASE」などで定期的に講義を提供しています。 「栄養、難しそう」と思っているトレーナーへ 川合さん自身、もともと栄養の専門家ではありませんでした。ボクサー時代は当時の書籍を頼りに「基礎代謝以下に抑えれば痩せるはず」という単純な足し算引き算で減量を試み、メロンパンだけで一日をやり過ごすような食生活を送っていたといいます。体重は確かに落ちたものの、体調は悪く、花粉症もひどくなった。それが栄養を本気で学ぶきっかけのひとつだったと話してくれました。 そういった経験を経て今の川合さんが言うのは、「栄養はそんなに構えるものじゃない」ということです。トレーナーを含む運動指導者はすでに毎日食事をしていて、栄養素についてのざっくりした知識も持っている。それを少し掘り下げるだけで、クライアントへの対応力は大きく変わる。むしろ川合さんは、すべての運動指導者・ヘルスケア従事者に栄養の知識を取り入れてほしいと考えています。 その理由として挙げるのが、パーソナルトレーナーは「人の身体の専門家」であるべきだという考え方です。人の体が動くためにはエネルギーが必要で、そのエネルギーは食事からしか来ない。運動療法の知識だけでは、人の体の全体像を支えきれない、というのが川合さんの一貫した立場です。 まず枝葉より幹を先に、三大栄養素から。 では、栄養を学び始めるとしたら何から手をつければいいのか。川合さんの答えは明快で、「三大栄養素を掘り下げること」です。 栄養療法の世界では、ビタミンやミネラルの話が多くなりがちです。もちろん不足すれば病気につながりますが、川合さんが実際のカウンセリングで繰り返し目にするのは、そこではなく「そもそも三大栄養素がちゃんと取れていない」という問題です。 慢性疲労を訴えてやってくる方が、朝は抜き、昼はパンとスープだけ、夜は肉と少量のご飯——というような食生活をしていることは珍しくない。あるいは、貧血改善のために鉄サプリを飲んでいるのに一向に改善しないというケースでは、ヘモグロビンが「鉄を含有するタンパク質」であることを踏まえると、タンパク質不足や糖質不足が実は根本にあることがある。枝葉(ビタミン・ミネラル)ばかりを見て、幹(三大栄養素)がおろそかになっているために改善しない——そういう例が多いと言います。 「体を大きくしたいのにBIG3をやらせていない」トレーナーの話を引き合いに出しながら、川合さんは笑ってこう言いました。栄養の話も同じで、基礎中の基礎を押さえることで意外なほど多くの不調に対応できる。その事実に気づくことが、第一歩だと。 「栄養素学」ではなく「栄養学」を 三大栄養素を学ぶ際、川合さんがセミナーでよく伝えることがあります。「栄養素学になってはいけない」という話です。 栄養とは、食べ物を口に入れて消化・吸収し、代謝するまでの一連の過程を指します。ところが、食品に含まれる栄養素だけを考えていると、その「代謝」の部分が抜け落ちてしまう。たとえば、筋肉がなかなかつかない・体重が増えないという方に消化不良が潜んでいることがある。カロリーもタンパク質も計算上は十分なのに、消化吸収の段階で問題が起きて、栄養素が体に入っていかないというケースです。 三大栄養素を深く掘り下げていくと、結局は人体そのものを学ばなければならなくなります。タンパク質の消化吸収の難しさ、脂質の代謝に必要な胆汁や膵液の役割、血液中を栄養素が巡るまでの時間 — こうした知識が積み重なることで、栄養療法として使える知識になる。これはトレーニング指導でも同じだと川合さんは言います。スクワットやスプリットスクワットを覚えるだけでは、関節の動きや体の使い方を理解していなければ効果的な指導はできない。栄養もトレーニングも、最終的には「人の体の専門家になること」がゴールだという考え方は、どちらの文脈でもぶれません。 栄養と運動を組み合わせると、何が変わるか 川合さんがパーソナルジムで実際に行っている指導では、運動指導が軸にあり、栄養の話は会話の中で自然に入ってきます。ボディメイクの話をしているだけで、睡眠の質が悪い・花粉症がきつい・風邪を引きやすい、といった困りごとが出てくる。そういう場面で栄養の知識があると、運動指導の延長として対応できることが増えると言います。 具体的な広がりとして、川合さんが挙げるのは内科的疾患への対応です。高血圧、二型糖尿病、高尿酸血症(痛風)など、運動の重要性はわかっていても、食生活の問題が根本にあるケースでは、運動療法だけでは適切な指導ができない。栄養療法と組み合わせることで、そういった方も担当できるようになる。 アレルギー症状についても同様です。花粉症などのアレルギーは粘膜や免疫系の破綻から来ており、栄養療法でかなり寛解できると川合さんは言います。また、慢性的に風邪を引きやすい方の免疫機能の低下にも、栄養療法で介入できる。こうした「ちょっとした困りごと」への対応力こそが、トレーナーとしての引き出しの広さにつながります。...
PODCAST #003 代表チームで求められるそれぞれぞの役割:ゲスト小泉圭介さん
答えのない現場で、どう判断するか。小泉圭介さんが語る「トレーナーの人間力」 この記事のもとになったポッドキャストはこちらからお聴きいただけます: エピソードを聴く パフォームベタージャパンが普段お付き合いしているトレーナーや関係者をお招きして、施設のこと、専門知識、セミナー活動まで幅広くお話を伺うポッドキャスト。今回ゲストにお招きしたのは、理学療法士・アスレティックトレーナーとして競技スポーツの最前線に立ち続けてきた小泉圭介さんです。 この収録を通じて小泉さんにはチームで働くことのポイントや、知識や技術を活かす現場力、それを支える人間としての土台など存分に語っていただきました。 小泉圭介さんについて 小泉さんは理学療法士・アスレティックトレーナーとして、北島康介さんをはじめとする多くの競泳選手のサポートに長年携わってきた方です。JISS(国立スポーツ科学センター)に2006年に入り、競泳を中心に水球など複数の競技現場でキャリアを積んできました。競技スポーツの現場では「困った時の小泉」と呼ばれるほど幅広い場面で頼られており、現在は東都大学の准教授として次世代の理学療法士の育成にも従事しながら、全国での講演・学会発表など幅広く活躍されています。 泳げなかったからこそ、理解できた 小泉さんが競泳に関わり始めたのは、泳ぎが得意だったからではありませんでした。前任スタッフの後任として「競泳を見てほしい」と言われ、水泳経験がほぼない状態でその世界に入ったというのが出発点です。 水泳経験がないことへの苦労は当然あったといいます。ただ小泉さんはそれを逆手に取りました。「理解するための努力は人一倍した」と言い切り、コーチ・科学スタッフ・選手本人と徹底的に話し込み、動画を見まくり、誰もが当たり前だと思っていることを一つひとつ掘り起こしていったそうです。 この姿勢について小泉さんは、若い理学療法士にもよく話すことがあると言います。「脳卒中になったことがないのに、脳卒中の方のリハをしているでしょ」という言葉です。経験がないことは、理解の妨げにはならない。理解するための想像力と、それを支えるための知識と対話の積み重ねがあれば、経験のない領域でも人の意図を汲み取る力は育てられる、という考えです。 さらに興味深いのは、競泳を知らなかったからこそ「先入観がなかった」という側面です。自分が平泳ぎの選手だったら、北島康介とそのテーマを対等に話すことへの抵抗が生まれていたかもしれない。経験がないことで、むしろ素直に「キックはずっとかかっているの?」というような、誰も聞かないような質問を自然にできたと話していました。 代表チームの現場で求められるもの—ATとPT、SCとコーチの役割論 現場を知る人間として、小泉さんはAT・PT・SC・競技コーチそれぞれの役割をどう整理しているのでしょうか。 アスレティックトレーナー(AT)は、今競技をしている選手をいい状態で試合に送り出すこと、すなわちコンディショニング全般を担う仕事だと小泉さんは言います。一方で理学療法士(PT)の役割の本質は、マイナスをゼロに戻すこと、つまり怪我や問題を抱えた選手を現場に戻すことにあります。だからこそ所属チームではPTが存在感を持つ一方、代表チームではその役割の必要度が競技によって変わってくると指摘します。ストレングスアンドコンディショニング(SC)はフィジカルを強化することが中心で、コーチは技術・戦術面で勝てる要素を引き出すのが役割です。 ただし代表チームという場では、いわば「寄せ集め」の状態で活動することになるため、ATであれPTであれSCであれ、コンディショニングへの対応力が最も問われる、というのが小泉さんの現場感です。小泉さん自身も理学療法士・ATというバックグラウンドを持ちながら、代表チームではコンディショニングを高めることをメインの仕事として位置づけています。 オリンピックの現場についても興味深い話がありました。一般的にはオリンピックこそ大人数のスタッフが動員できると思われがちですが、選手団に入れるカードの枚数は出場選手数の原則半数程度しかもらえないため、実際にはスタッフの人数で苦労することも多い。世界選手権の方がトレーナーの数が多い場合もあるそうです。競泳の場合、会場が閉鎖空間であり選手が毎日入れ替わりながらも連日出場するという特殊な状況があるため、スタッフの配置は毎回複雑な調整を要すると言っていました。 「ジャパンウェイ」の起源と、海外が注目する理由 国際大会の現場で変化を実感したエピソードも聞けました。かつての世界選手権では、各国ともベッドを並べてひたすら選手にマッサージをするのがスタンダードだった時代がありました。その中で日本チームだけがマットを敷いてさまざまなエクササイズを行っていたといいます。 その後、最近のパリ大会では各国もマットを使い、バランスボールやスーパーバンドを取り入れた陸上でのウォーミングアップを行うようになっていたそうです。アメリカのコーチが日本チームのコンディショニング目的のトレーニングを動画に撮り、「自分はジャパンのファンだ」と言っていたというエピソードも印象的でした。 この「ジャパンウェイ」が生まれた背景には、水泳という競技の特性があります。水圧では強い負荷をかけられないため、泳ぐだけでは筋力が落ちてしまう。だからこそレースのギリギリまでフィジカルを高め、コンディションを整えた上で一分・二分の勝負に挑む、というコンセプトが必要だったと小泉さんは言います。これはパラ水泳でも同様で、関わり始めて10年が経ちますが、陸上でのトレーニングの重要性がようやく浸透してきたと感じているそうです。 現場力とは何か—知識や技術の先にあるもの 現場力という言葉があります。小泉さんはこれを「現場にいないとわからない」と言い切りながら、ではそれはどう育てるかという問いに向き合っていました。 小泉さんが実践しているのは、経験者と若手を組み合わせて現場に出すことです。若手が自分のキャパを超えた時にベテランが対応できる体制にしておくことで、安心して力を発揮できる環境をつくる。そうすることで経験が積み上がっていくという考えです。 ただ、現場力の入り口には「素養」があると小泉さんは言います。それはクリエイティブな柔軟性であり、迷いのなさ、そして決断力です。 例えば派遣スタッフを決める管理者が経験の少ないスタッフに「行く?」と聞いたら「行かせてください!」という決断と、現場で「こうしましょう」と決める決断は、根本的に近いものだと話していました。 この決断力は、技術と同様にトレーニング可能だと小泉さんは考えます。現場に出る前から、日常のあらゆる判断の積み重ねの中でそれは培われているし、それができているかどうかは、人に与えられた仕事に対してまずやってみようと言えるかどうかに表れる。そして大切なのは振り返りです。やりっぱなしにせず、マルだったのかバツだったのか三角だったのかを確認することで、次の判断の確率が上がっていく。 もう一つ、小泉さんが重視しているのが「わからなければ聞く」という姿勢です。自分の限界がわかっていて、それを正直に言える人間の方が信頼できるし、よく伸びると話していました。横から見て「わかっていない」状態で突っ走るのが一番危ない、と言葉に力を込めていました。 器具がなくてもできることを、常に考える 現場では設備や器具の制限があることがほとんどです。競泳のプールサイドに持ち込めるものは限られていますし、海外遠征では荷物の重さも制約になります。...
PODCAST #002 足部からパフォーマンスを考える - 現在の最適解:ゲスト阿部勝彦さん
「教える」のではなく「共有する」── 阿部さんが語る、見過ごされてきた"足"という土台 この記事のもとになったポッドキャストはこちらからお聴きいただけます:エピソードを聴く パフォームベタージャパンが普段お付き合いしているトレーナーや関係者をお招きして、施設のこと、専門知識、セミナー活動まで幅広くお話を伺うポッドキャスト。その第2回ゲストに、STRIDE ReMOVの阿部さんをお迎えしました。 私たちがこの対談をブランドサイトでお届けする理由はシンプルです。現場の第一線に立ち続けてきた指導者が「いま何を考えているのか」を、同じ現場に立つ仲間に共有したい。阿部さん自身が繰り返し口にする「教えるのではなく、共有する」という姿勢は、業界全体で知見を持ち寄り、ともに育てていきたいという私たちの考えとも重なります。本稿では、その内容をトレーナーをはじめとする専門家の皆さん向けにまとめます。 阿部さんという指導者 阿部さんは、アメリカの著名なアスリートパフォーマンス施設であるEXOSを中心に、さまざまな競技のアスリートのトレーニング指導を歴任してきた指導者です。帰国後はバスケットボール日本代表やプロ野球チームでの活動を経て、昨年12月にプロ野球球団との契約を終え、今年1月から株式会社ストライドのグループ子会社として株式会社ストライドリムーブを立ち上げました。代表ではなく取締役という立場で、経営の一角を担いながら事業を立ち上げています。 「野球の人」「バスケの人」「EXOSの人」── 受け取る人によってイメージはさまざまですが、共通しているのは、トップアスリートを長く見続けてきたという事実です。その阿部さんが、いまなぜ"足"と"一般の人が動ける喜び"に向かうのか。そこに今回の対談のテーマがあります。 なぜ「足」なのか 阿部さんがSTRIDE ReMOVで掲げるのは、競技者から一般の方まで、足に対する教育と認知を広めていくことです。その背景には、阿部さん自身の関心の重なりがあります。競技者のトレーニングを見続けてきた一方で、阿部さん自身もロードバイクやマウンテンバイク、トレイルランニング、クライミング、スキーなど、体を使ったアウトドアのアクティビティを心から楽しんできました。「動けることの喜び」を多くの人に広げたい── その入口として、足に着目しています。 足は、楽しいアクティビティに欠かせない土台です。そして近年、世界的にも「歩く機能の低下」が健康課題の一つとして語られています。歩けなくなることで活動量が減り、それが心臓病をはじめとする他の疾患につながり、最終的には寿命にも影響する。そうした論文や調査が数多く挙げられているといいます。歩けなくなれば活動量が減るのは自然なことで、それが他の不調の引き金になるのは想像に難くありません。アメリカで先行して語られてきたこうした「足の機能の見直し」が、いま日本にも入ってきている。そこに阿部さんは強く腑に落ちるものを感じ、事業として広めていきたいと考えています。 運動連鎖の「土台」としての足 ここからは、トレーナーであれば思い当たる節のある話ではないでしょうか。 阿部さんが現場で繰り返し目にしてきたのは、足部の機能が十分でないがゆえに起こる運動連鎖の破綻でした。スクワット、シングルレッグでのバランス、シングルレッグスクワット、RDL。こうした動作のなかで、足部が安定しないために膝が内に入り、X脚的になり、その崩れが骨盤へと波及して、最終的にスクワット動作そのものの不全につながっている選手を数多く見てきたといいます。 競技動作でも同じです。たとえばピッチャーの投球動作。並進(へいしん)の局面で股関節からプレートを押す動作は非常に重要ですが、その押す段階ですでに足部の機能が破綻していると、最後までラバープレートを押し切れず、足が跳ねて力の伝達や体重移動がうまくいきません。前足部の減速動作も同様です。右ピッチャーでいう左足は、マウンドの傾斜に負けないよう最終的に足で固定し、それを軸に体重移動して、その跳ね返りでスピードを生みます。ところが足が安定しないと膝が揺れる。「投球動作で前足の膝が重要だ」と多くの人が語りますが、ではその膝が揺れる原因は何かと突き詰めると、足部に行き着くのではないか── 阿部さんはそう感じてきました。 この「足を診る」という視点には、原体験があります。アメリカ時代、まだ駆け出しだった阿部さんが現地の球団で仕事をしていたとき、関わったあるピッチャーから「トレーニング指導をするなら、絶対に下から診たほうがいい」「運動は足から決まっているから、足を診られるようになればいい指導者になれる」と言われたことを、今でも覚えているそうです。以来、選手を診るときは「最終的に地面とどうつながっているか」を必ず見る。足の機能、足の環境設定を確認したうえで、全体の運動を見ていく。靴の重要性や、素足でのトレーニングを早くから許容してきたのも、その延長線上にあります。 ここで強調しておきたいのは、阿部さんは「足だけを診る人」になったわけではない、ということです。むしろ大きな筋群や大きな関節を優先してトレーニングするのは、それだけの理由がある。大きな力を生めるからこそ大きな筋群なのであって、高くジャンプしたいときに足部のトレーニングだけをする人はいません。股関節をやり、膝の伸展能力に必要な筋を鍛え、最後に足関節へ── そうした運動連鎖を考えるのが自然です。だからこそ「足、足、足」と前面に押し出しにくかった理由も阿部さん自身がよく理解しています。土台が崩れていれば上をどれだけ積み上げても難しい場面があると感じつつ、優先順位の現実とも折り合いをつけてきた。その両方を踏まえたうえで、いま改めて「とっかかりは足から」と伝えている、というわけです。 測定が突きつけた現実 では、足の課題はどれほど深刻なのか。阿部さんはSTRIDE ReMOVでの測定を通じて、その一端を実感したといいます。 一つは、下腿のヒラメ筋の出力測定です。論文ベースで「これくらいあったほうがよい」という指標を設け、無料イベントとしてフィードバックを行いました。およそ30人を測定したところ、その指標に届いた人はほぼゼロ。しかも対象の多くは、週に2〜3回、3〜4回ほど運動している人たち、つまり「運動不足」とは言えない層でした。 もう一つは、片足でのバランステストです。床反力計を用いて、足圧中心の移動距離を開眼・閉眼の両条件で見ました。開眼では視覚を使ってバランスを取り、閉眼では体性感覚・固有受容器を使ってバランスを取る、という評価です。結果、開眼ではできるのに、閉眼になった瞬間に大きくバランスを崩す人が予想以上に多かった。固有受容器の感覚が鈍っている、言い換えれば「使えていない」人が多かったのです。 ここで阿部さんが誠実なのは、この結果を断定しない点です。設けた指標が適切でない可能性もあるし、測定そのものが初めての人にとっては「出力の発揮の仕方がわからない」「思ったより力が出なかった」といった慣れの問題も当然ある。一度きりの測定で判断するのは難しく、本来は何度も繰り返して数値の傾向を見る必要がある── そうした留保をはっきり添えたうえで、それでも「届いていない人が多かった」という事実は意外だった、と語ります。...
感覚運動科学とストレングス(近藤 拓人先生)|ウェビナーレポート
今回は、先日開催した近藤 拓人先生による無料ウェビナー「感覚運動科学とストレングストレーニング -出力を最大化する感覚入力」の内容の一部をご紹介します。 近藤先生は10/17〜18に開催するパフォームベタージャパンサミット2026にもご登壇いただきますのでご検討中の方はぜひご確認ください。 ■テーマ:感覚運動科学とストレングストレーニング -出力を最大化する感覚入力 ■開催日:2026年5月5日 ■講師:近藤 拓人(AZCARE代表,NEXPORT代表) トレーニングの全体像(5つのブロック) トレーニングを単体で捉えるのではなく、5つのブロックを統合してアプローチしています。 ・トリートメント:運動しやすい環境づくり・コレクティブ:動作パターンの是正・ストレングス:筋機能の向上・ムーブメント:実環境に近い運動・エアロビック:持久的能力の向上 それぞれが独立しているのではなく、段階的かつ相互に影響しながら機能する構造として整理されています。 ストレングストレーニング ストレングストレーニングでは、 ・構造的な変化(筋肥大)・神経的な変化(筋力・パワー)・競技特異的な変化 といった側面が扱われます。 筋肥大を達成するためには仕事量が必要であり、そのためには外部負荷を用いることが重要とされています。 低負荷で同様の仕事量を確保しようとすると、反復回数が増加し、時間効率やストレスの観点で課題が生じます。 動的安定性と感覚運動システム ストレングストレーニングに先立ち、動的安定性の獲得が重要とされています。 動的安定性は、 ・体性感覚・視覚・前庭覚 といった感覚情報を統合し、環境の変化に応じて身体を制御する能力です。 前庭機能が適切に働かない場合、脳は身体が不安定であると判断し、筋緊張を高めることで安定性を確保しようとします。 この状態では過剰な緊張が生じ、運動出力に制限がかかる可能性があります。 下降局面におけるコントロール スクワット動作において、下降局面(エキセントリック)は上昇局面(コンセントリック)よりも制御が難しいとされています。 下降局面では、 ・床反力の低下・弾性エネルギーの利用・外力のコントロール...
感覚運動科学とストレングス(近藤 拓人先生)|ウェビナーレポート
再現性のあるコンディショニング指導法(荒井 秀幸先生)|ウェビナーレポート
今回は、先日開催した株式会社R-body の荒井秀幸先生による無料ウェビナー「知識・経験ゼロからでも結果が出せる!再現性のあるコンディショニング指導法」の内容の一部をご紹介いたします。 荒井先生は10/17〜18に開催するパフォームベタージャパンサミット2026にもご登壇いただきますのでご検討中の方はぜひご確認ください。 ■テーマ:知識・経験ゼロからでも結果が出せる!再現性のあるコンディショニング指導法 ■開催日:2026年4月7日 ■講師:荒井 秀幸 (株式会社R-body Chief Technical Officer) コンディショニングを適切に行うために大切なこととは コンディショニングの必要性自体は広く認識されていますが、 現場では ・改善してもすぐに戻ってしまう ・トレーニングをしているのに不調が残る といったケースが少なくありません。 これは「何をやるか」ではなく、「どのように・なぜ行うか」が整理されていないことが一因です。 コンディショニングは、単発のエクササイズではなく、身体の状態を段階的に変化させていくプロセスとして設計される必要があります。 再現性とは“技術”ではなく“構造” 「再現性」は、特定のスキルや経験に依存するものではなく、「同じ手順・同じ考え方で進めれば、一定の結果に繋がる構造」です。 実際に、経験豊富なコーチだけでなく、トレーナー未経験者であっても短期間の学習を通じて改善を引き出せている点は、この“構造化された指導”の特徴を示しています。 コンディショニングの一例 実技パートでは、肩こりへのアプローチを例に、 1.筋緊張の抑制(インヒビション) 2.安定性の獲得(アクティベーション) 3.動作への統合(インテグレーション) という流れで進められました。 ここで重要なのは、それぞれが独立したエクササイズではなく、「次の段階に繋げるための準備として位置づけられている」という点です。 例えば、筋肉を緩めるだけでは不十分であり、その後に安定性を作り、最終的に動作に統合されなければ、日常生活や競技動作には繋がりません。 「できるようになる」で終わらせない...
再現性のあるコンディショニング指導法(荒井 秀幸先生)|ウェビナーレポート
慢性疲労に対する栄養療法(川合 智先生)|ウェビナーレポート
今回は、先日開催した川合 智先生による無料ウェビナー「慢性疲労に対する栄養療法」の内容の一部をご紹介します。 ご参加いただけなかった方や、復習したい方は是非ご確認ください。 ■テーマ:慢性疲労に対する栄養療法 ■開催日:2026年4月24日 ■講師:川合 智(日本統合療法株式会社代表取締役) 慢性疲労は「未病」として捉える 慢性疲労というと「疲れが抜けない状態」と捉えられがちですが、今回のウェビナーではまずこの前提が整理されました。 血液検査などで異常が見つからないにも関わらず、日常生活に支障をきたすほどの不調が続く状態。 このような状態は、「健康」と「病気」の間にある未病として捉えられます。 現場でも、 ・朝起きられない ・十分に寝ても疲れが取れない ・日中の集中力が続かない といったケースに多く遭遇しますが、こうした状態こそが慢性疲労の入り口である可能性があります。 なぜ疲労は抜けないのか? 慢性疲労は単一の原因ではなく、構造的に起きています。 特に重要な要素として ・慢性炎症・低血糖・消化機能の低下 上記3つが挙げられます。 これらは独立しているのではなく、相互に影響し合いながら悪循環を生み出します。 例えば、慢性炎症によってホルモンバランスが乱れ、血糖コントロールが不安定になり低血糖を引き起こす。 さらに交感神経の過活動により消化機能が低下し、栄養の吸収効率が落ちる。 このような連鎖によって、「回復できない状態」が続いてしまうと考えられます。 トレーナーが見落としやすい視点 運動が必ずしも改善につながるとは限らないという点は重要なポイントです。 慢性疲労の状態では、 ・トレーニングによる炎症の増加 ・回復ホルモンの消耗...
慢性疲労に対する栄養療法(川合 智先生)|ウェビナーレポート
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