COLUMN
PODCAST #002 足部からパフォーマンスを考える - 現在の最適解:ゲスト阿部勝彦さん
「教える」のではなく「共有する」── 阿部さんが語る、見過ごされてきた"足"という土台 この記事のもとになったポッドキャストはこちらからお聴きいただけます:エピソードを聴く パフォームベタージャパンが普段お付き合いしているトレーナーや関係者をお招きして、施設のこと、専門知識、セミナー活動まで幅広くお話を伺うポッドキャスト。その第2回ゲストに、STRIDE ReMOVの阿部さんをお迎えしました。 私たちがこの対談をブランドサイトでお届けする理由はシンプルです。現場の第一線に立ち続けてきた指導者が「いま何を考えているのか」を、同じ現場に立つ仲間に共有したい。阿部さん自身が繰り返し口にする「教えるのではなく、共有する」という姿勢は、業界全体で知見を持ち寄り、ともに育てていきたいという私たちの考えとも重なります。本稿では、その内容をトレーナーをはじめとする専門家の皆さん向けにまとめます。 阿部さんという指導者 阿部さんは、アメリカの著名なアスリートパフォーマンス施設であるEXOSを中心に、さまざまな競技のアスリートのトレーニング指導を歴任してきた指導者です。帰国後はバスケットボール日本代表やプロ野球チームでの活動を経て、昨年12月にプロ野球球団との契約を終え、今年1月から株式会社ストライドのグループ子会社として株式会社ストライドリムーブを立ち上げました。代表ではなく取締役という立場で、経営の一角を担いながら事業を立ち上げています。 「野球の人」「バスケの人」「EXOSの人」── 受け取る人によってイメージはさまざまですが、共通しているのは、トップアスリートを長く見続けてきたという事実です。その阿部さんが、いまなぜ"足"と"一般の人が動ける喜び"に向かうのか。そこに今回の対談のテーマがあります。 なぜ「足」なのか 阿部さんがSTRIDE ReMOVで掲げるのは、競技者から一般の方まで、足に対する教育と認知を広めていくことです。その背景には、阿部さん自身の関心の重なりがあります。競技者のトレーニングを見続けてきた一方で、阿部さん自身もロードバイクやマウンテンバイク、トレイルランニング、クライミング、スキーなど、体を使ったアウトドアのアクティビティを心から楽しんできました。「動けることの喜び」を多くの人に広げたい── その入口として、足に着目しています。 足は、楽しいアクティビティに欠かせない土台です。そして近年、世界的にも「歩く機能の低下」が健康課題の一つとして語られています。歩けなくなることで活動量が減り、それが心臓病をはじめとする他の疾患につながり、最終的には寿命にも影響する。そうした論文や調査が数多く挙げられているといいます。歩けなくなれば活動量が減るのは自然なことで、それが他の不調の引き金になるのは想像に難くありません。アメリカで先行して語られてきたこうした「足の機能の見直し」が、いま日本にも入ってきている。そこに阿部さんは強く腑に落ちるものを感じ、事業として広めていきたいと考えています。 運動連鎖の「土台」としての足 ここからは、トレーナーであれば思い当たる節のある話ではないでしょうか。 阿部さんが現場で繰り返し目にしてきたのは、足部の機能が十分でないがゆえに起こる運動連鎖の破綻でした。スクワット、シングルレッグでのバランス、シングルレッグスクワット、RDL。こうした動作のなかで、足部が安定しないために膝が内に入り、X脚的になり、その崩れが骨盤へと波及して、最終的にスクワット動作そのものの不全につながっている選手を数多く見てきたといいます。 競技動作でも同じです。たとえばピッチャーの投球動作。並進(へいしん)の局面で股関節からプレートを押す動作は非常に重要ですが、その押す段階ですでに足部の機能が破綻していると、最後までラバープレートを押し切れず、足が跳ねて力の伝達や体重移動がうまくいきません。前足部の減速動作も同様です。右ピッチャーでいう左足は、マウンドの傾斜に負けないよう最終的に足で固定し、それを軸に体重移動して、その跳ね返りでスピードを生みます。ところが足が安定しないと膝が揺れる。「投球動作で前足の膝が重要だ」と多くの人が語りますが、ではその膝が揺れる原因は何かと突き詰めると、足部に行き着くのではないか── 阿部さんはそう感じてきました。 この「足を診る」という視点には、原体験があります。アメリカ時代、まだ駆け出しだった阿部さんが現地の球団で仕事をしていたとき、関わったあるピッチャーから「トレーニング指導をするなら、絶対に下から診たほうがいい」「運動は足から決まっているから、足を診られるようになればいい指導者になれる」と言われたことを、今でも覚えているそうです。以来、選手を診るときは「最終的に地面とどうつながっているか」を必ず見る。足の機能、足の環境設定を確認したうえで、全体の運動を見ていく。靴の重要性や、素足でのトレーニングを早くから許容してきたのも、その延長線上にあります。 ここで強調しておきたいのは、阿部さんは「足だけを診る人」になったわけではない、ということです。むしろ大きな筋群や大きな関節を優先してトレーニングするのは、それだけの理由がある。大きな力を生めるからこそ大きな筋群なのであって、高くジャンプしたいときに足部のトレーニングだけをする人はいません。股関節をやり、膝の伸展能力に必要な筋を鍛え、最後に足関節へ── そうした運動連鎖を考えるのが自然です。だからこそ「足、足、足」と前面に押し出しにくかった理由も阿部さん自身がよく理解しています。土台が崩れていれば上をどれだけ積み上げても難しい場面があると感じつつ、優先順位の現実とも折り合いをつけてきた。その両方を踏まえたうえで、いま改めて「とっかかりは足から」と伝えている、というわけです。 測定が突きつけた現実 では、足の課題はどれほど深刻なのか。阿部さんはSTRIDE ReMOVでの測定を通じて、その一端を実感したといいます。 一つは、下腿のヒラメ筋の出力測定です。論文ベースで「これくらいあったほうがよい」という指標を設け、無料イベントとしてフィードバックを行いました。およそ30人を測定したところ、その指標に届いた人はほぼゼロ。しかも対象の多くは、週に2〜3回、3〜4回ほど運動している人たち、つまり「運動不足」とは言えない層でした。 もう一つは、片足でのバランステストです。床反力計を用いて、足圧中心の移動距離を開眼・閉眼の両条件で見ました。開眼では視覚を使ってバランスを取り、閉眼では体性感覚・固有受容器を使ってバランスを取る、という評価です。結果、開眼ではできるのに、閉眼になった瞬間に大きくバランスを崩す人が予想以上に多かった。固有受容器の感覚が鈍っている、言い換えれば「使えていない」人が多かったのです。 ここで阿部さんが誠実なのは、この結果を断定しない点です。設けた指標が適切でない可能性もあるし、測定そのものが初めての人にとっては「出力の発揮の仕方がわからない」「思ったより力が出なかった」といった慣れの問題も当然ある。一度きりの測定で判断するのは難しく、本来は何度も繰り返して数値の傾向を見る必要がある── そうした留保をはっきり添えたうえで、それでも「届いていない人が多かった」という事実は意外だった、と語ります。...
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