「教える」のではなく「共有する」── 阿部さんが語る、見過ごされてきた"足"という土台
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パフォームベタージャパンが普段お付き合いしているトレーナーや関係者をお招きして、施設のこと、専門知識、セミナー活動まで幅広くお話を伺うポッドキャスト。その第2回ゲストに、STRIDE ReMOVの阿部さんをお迎えしました。
私たちがこの対談をブランドサイトでお届けする理由はシンプルです。現場の第一線に立ち続けてきた指導者が「いま何を考えているのか」を、同じ現場に立つ仲間に共有したい。阿部さん自身が繰り返し口にする「教えるのではなく、共有する」という姿勢は、業界全体で知見を持ち寄り、ともに育てていきたいという私たちの考えとも重なります。本稿では、その内容をトレーナーをはじめとする専門家の皆さん向けにまとめます。
阿部さんという指導者
阿部さんは、アメリカの著名なアスリートパフォーマンス施設であるEXOSを中心に、さまざまな競技のアスリートのトレーニング指導を歴任してきた指導者です。帰国後はバスケットボール日本代表やプロ野球チームでの活動を経て、昨年12月にプロ野球球団との契約を終え、今年1月から株式会社ストライドのグループ子会社として株式会社ストライドリムーブを立ち上げました。代表ではなく取締役という立場で、経営の一角を担いながら事業を立ち上げています。
「野球の人」「バスケの人」「EXOSの人」── 受け取る人によってイメージはさまざまですが、共通しているのは、トップアスリートを長く見続けてきたという事実です。その阿部さんが、いまなぜ"足"と"一般の人が動ける喜び"に向かうのか。そこに今回の対談のテーマがあります。
なぜ「足」なのか
阿部さんがSTRIDE ReMOVで掲げるのは、競技者から一般の方まで、足に対する教育と認知を広めていくことです。その背景には、阿部さん自身の関心の重なりがあります。競技者のトレーニングを見続けてきた一方で、阿部さん自身もロードバイクやマウンテンバイク、トレイルランニング、クライミング、スキーなど、体を使ったアウトドアのアクティビティを心から楽しんできました。「動けることの喜び」を多くの人に広げたい── その入口として、足に着目しています。
足は、楽しいアクティビティに欠かせない土台です。そして近年、世界的にも「歩く機能の低下」が健康課題の一つとして語られています。歩けなくなることで活動量が減り、それが心臓病をはじめとする他の疾患につながり、最終的には寿命にも影響する。そうした論文や調査が数多く挙げられているといいます。歩けなくなれば活動量が減るのは自然なことで、それが他の不調の引き金になるのは想像に難くありません。アメリカで先行して語られてきたこうした「足の機能の見直し」が、いま日本にも入ってきている。そこに阿部さんは強く腑に落ちるものを感じ、事業として広めていきたいと考えています。
運動連鎖の「土台」としての足
ここからは、トレーナーであれば思い当たる節のある話ではないでしょうか。
阿部さんが現場で繰り返し目にしてきたのは、足部の機能が十分でないがゆえに起こる運動連鎖の破綻でした。スクワット、シングルレッグでのバランス、シングルレッグスクワット、RDL。こうした動作のなかで、足部が安定しないために膝が内に入り、X脚的になり、その崩れが骨盤へと波及して、最終的にスクワット動作そのものの不全につながっている選手を数多く見てきたといいます。
競技動作でも同じです。たとえばピッチャーの投球動作。並進(へいしん)の局面で股関節からプレートを押す動作は非常に重要ですが、その押す段階ですでに足部の機能が破綻していると、最後までラバープレートを押し切れず、足が跳ねて力の伝達や体重移動がうまくいきません。前足部の減速動作も同様です。右ピッチャーでいう左足は、マウンドの傾斜に負けないよう最終的に足で固定し、それを軸に体重移動して、その跳ね返りでスピードを生みます。ところが足が安定しないと膝が揺れる。「投球動作で前足の膝が重要だ」と多くの人が語りますが、ではその膝が揺れる原因は何かと突き詰めると、足部に行き着くのではないか── 阿部さんはそう感じてきました。
この「足を診る」という視点には、原体験があります。アメリカ時代、まだ駆け出しだった阿部さんが現地の球団で仕事をしていたとき、関わったあるピッチャーから「トレーニング指導をするなら、絶対に下から診たほうがいい」「運動は足から決まっているから、足を診られるようになればいい指導者になれる」と言われたことを、今でも覚えているそうです。以来、選手を診るときは「最終的に地面とどうつながっているか」を必ず見る。足の機能、足の環境設定を確認したうえで、全体の運動を見ていく。靴の重要性や、素足でのトレーニングを早くから許容してきたのも、その延長線上にあります。
ここで強調しておきたいのは、阿部さんは「足だけを診る人」になったわけではない、ということです。むしろ大きな筋群や大きな関節を優先してトレーニングするのは、それだけの理由がある。大きな力を生めるからこそ大きな筋群なのであって、高くジャンプしたいときに足部のトレーニングだけをする人はいません。股関節をやり、膝の伸展能力に必要な筋を鍛え、最後に足関節へ── そうした運動連鎖を考えるのが自然です。だからこそ「足、足、足」と前面に押し出しにくかった理由も阿部さん自身がよく理解しています。土台が崩れていれば上をどれだけ積み上げても難しい場面があると感じつつ、優先順位の現実とも折り合いをつけてきた。その両方を踏まえたうえで、いま改めて「とっかかりは足から」と伝えている、というわけです。
測定が突きつけた現実
では、足の課題はどれほど深刻なのか。阿部さんはSTRIDE ReMOVでの測定を通じて、その一端を実感したといいます。
一つは、下腿のヒラメ筋の出力測定です。論文ベースで「これくらいあったほうがよい」という指標を設け、無料イベントとしてフィードバックを行いました。およそ30人を測定したところ、その指標に届いた人はほぼゼロ。しかも対象の多くは、週に2〜3回、3〜4回ほど運動している人たち、つまり「運動不足」とは言えない層でした。
もう一つは、片足でのバランステストです。床反力計を用いて、足圧中心の移動距離を開眼・閉眼の両条件で見ました。開眼では視覚を使ってバランスを取り、閉眼では体性感覚・固有受容器を使ってバランスを取る、という評価です。結果、開眼ではできるのに、閉眼になった瞬間に大きくバランスを崩す人が予想以上に多かった。固有受容器の感覚が鈍っている、言い換えれば「使えていない」人が多かったのです。
ここで阿部さんが誠実なのは、この結果を断定しない点です。設けた指標が適切でない可能性もあるし、測定そのものが初めての人にとっては「出力の発揮の仕方がわからない」「思ったより力が出なかった」といった慣れの問題も当然ある。一度きりの測定で判断するのは難しく、本来は何度も繰り返して数値の傾向を見る必要がある── そうした留保をはっきり添えたうえで、それでも「届いていない人が多かった」という事実は意外だった、と語ります。
示唆的なのは、ここから広がる視点です。長い距離を走れる、速く走れる、運動できている。それと、足部の機能が十分かどうかは、また別の問題ではないか。そして阿部さんは、これは足に限った話ではないかもしれない、と続けます。現代社会は、人間の機能をあまり使わなくても物事が成り立つようにできています。クリック一つで物が買え、食べ物も手に入る。体を動かさなくても用が足りる。靴の機能が上がったぶん、足の機能を使わなくても靴が代わりに役割を果たしてくれる。便利になった代償として、私たちの機能が少しずつ低下しているのかもしれない── そう考えると、足の課題は「やれることがたくさんある」領域だ、というわけです。
「靴」という環境設定
靴の話は、阿部さんがあえて踏み込むテーマです。もともと「物の重要性」を語るのは個人的に好きではないという阿部さんですが、靴に関しては言わざるを得ない、と言います。
理由は明快です。現代社会で靴を履かずに生きている人はほぼいない。衣食住のなかに靴は確実に含まれ、運動指導者も運動する人も、全員が必ず関わる「環境設定」です。その環境設定をどう捉えるかが、体へのアプローチに直結します。
そこに一つの逆説があります。靴の機能性が上がると、体の機能はおそらく落ちる。現代のランニングシューズや運動用の靴は機能性を重視したものが多く、その機能のおかげで、人間の体がさほど頑張らなくても目的のタスクを達成できてしまう。しかし私たちが本来やりたいのは「体の機能を上げること」のはずで、ここに矛盾が生じます。だからこそ、靴の機能をあえて落とすことが、体の機能を上げることにつながる。ベアフットシューズ、フットシェイプというコンセプトが阿部さんの中で深く腑に落ちているのは、この理屈ゆえです。
もちろん、現実には靴を選べない場面もあります。アスリートは競技用のスパイクやバスケットボール選手はバッシュを履かなければならず、ビジネスパーソンは革靴、特定の作業では安全靴が必要になる。常にベアフットシューズを履ける人ばかりではありません。だからこそ、限られた靴を履かなくてよいとき── たとえばジムでのトレーニング時に、本来の足の機能を取り戻すためにそうした靴を履く、という使い分けが現実的です。そしてベアフットシューズは、体験してみないとその違いがわかりにくい。だからこそ、まず一度履いてみる場があることに意味があります。
興味深いのは、こうした流れが競技の世界でも進んでいることです。世界的には、競技者用の靴にもフットシェイプのデザインが取り入れられ始めています。バスケットボール、サッカー、野球のスパイク、テニスシューズ、さらには自転車のクリーツに至るまで、トウボックスが広く、ゼロドロップ(高低差がない)というコンセプトの競技用シューズが登場している。ここで紹介してきたような考え方から、そうしたコンセプトのシューズを手がける会社が増えてきている、というわけです。日本では情報がやや遅れて入ってくる面もあるものの、競技外だけでなく競技中も履ける環境が整いつつあります。
なお対談では、日本独自の文脈にも話が広がりました。相撲、柔道、剣道など、素足で競技を行う文化が日本には数多くある。そうした競技者と、足が動かないほど固定された靴を履かなければならない競技者を比較できたら面白い── 阿部さんがそんな研究的関心を口にする場面もありました。横アーチがしっかり形成されていれば足の剛性が高まり、推進力も生みやすい。素足の時間が長い人の足には、そうした強みが宿っているのかもしれません。こうした「まだ誰も十分に調べていない問い」に目を輝かせるところに、阿部さんという指導者の姿勢がよく表れています。
同業の指導者へ ──「教える」のではなく「共有する」
ここまで読んでいただいたトレーナーの皆さんに、いちばん伝えたい阿部さんの言葉があります。
阿部さんは、自分を「何かを教える立場」だとは考えていません。この業界に20年以上身を置き、さまざまなアプローチや考え方に触れてきたからこそ、自分は常に発展途上だと言います。だから取りたいのは「共有する」というスタンス。「現時点で自分が考えているのはこういう形です。皆さんはどうですか、意見を聞きたいです」── そう問いかけ続けたい、と。
その背景には、この分野そのものへの認識があります。ストレングス&コンディショニングという領域は、他分野と比べれば歴史が浅く、本格的な研究や論文が出始めてからまだ三、四十年ほど。とりわけ足に関しては、他と比べて研究の数がまだ足りていません。だからこそ面白い。自分がいろいろと試し、検証していくことで、わかってくることがあるのではないか── そうした期待を込めて、阿部さんは「教える」ではなく「共有する」という言葉を選びます。
そしてこの姿勢は、もう一歩進みます。阿部さんは同業のトレーナーをライバルだとは考えていません。むしろ施設にどんどん遊びに来てほしいし、足への気づきを持つ指導者が増え、「足を大事にしたほうがいい」と発信してくれる人が増えるほど、世の中は豊かになると考えています。自分たちのやっていることを広めたいからこそ、同じことを発信してくれる仲間が増えることを歓迎する。これは、競争ではなく業界全体の底上げを願う姿勢にほかなりません。
念のため補足すれば、これは自信のなさの裏返しではありません。提供するセミナーや情報の中身はしっかりしたものであり、有意義なものを届けるという前提は揺るがない。そのうえで、いろいろな話を受け入れる柔軟さを持っている── それが阿部さんの強みだと、私たちは考えています。
おわりに
トップアスリートを長く見てきた指導者が、いま「足」という見過ごされがちな土台に光を当て、一般の人が動ける喜びを広げようとしている。その営みのなかには、運動連鎖の捉え方、測定が突きつける現実、靴という環境設定の逆説など、現場のトレーナーにとって示唆に富むテーマが詰まっていました。
パフォームベタージャパンは、こうした第一線の指導者の生きた知見を現場の仲間に共有し、トレーナーの皆さんが多様なアプローチを実践できる環境を、知見の面でも道具の面でも支えていきたいと考えています。阿部さんのポッドキャストは今後も続きます。「このテーマを聞いてみたい」というご要望があれば、ぜひパフォームベタージャパンまでお問い合わせください。皆さんからの問いかけが、次の対談を形づくっていきます。
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