今回は、先日開催した近藤 拓人先生による無料ウェビナーの内容の一部をご紹介します。
近藤先生はパフォームベタージャパンサミット2026で2つのテーマで講義いただきますが、そのうち「感覚運動科学に基づいた関節中心化(Joint Centration)の再考」についてお話しいただきました。
関節中心化を単なる関節の位置として捉えるのではなく、感覚運動システムを通して、動作の中でどのように適切な状態を維持していくのか。
今回のウェビナーでは、その考え方から実際の介入までが紹介されました。
■テーマ:感覚運動科学に基づいた関節中心化(Joint Centration)の再考
■開催日:2026年7月26日
■講師:近藤 拓人 (AZCARE 代表/ NEXPORT代表)
関節中心化(Joint Centration)を再考する

関節中心化とは、単に構造学的に関節を中央に位置させることではありません。
動作中には関節を構成する骨同士も動き続けます。
その中で関節面の適合性を保ち、周囲の筋群が適切に働く状態を維持することが重要になります。
姿勢を修正したり、徒手的に関節を良い位置へ誘導したりするだけでなく、日常生活や競技のように環境や課題が変化する中でも、無意識にその状態を維持できることが求められます。
そのため、関節中心化を考える際には、関節の構造だけでなく、身体から得られる情報をもとに運動を調整する神経筋コントロールまで含めて考える必要があります。
関節中心化を支える感覚運動システム

動的な関節中心化には、運動前の予測と、実際に運動した際に得られる感覚情報が関係しています。
人は運動経験を重ねることで、「このように動けば、このような感覚が返ってくる」という予測をつくり、実際に得られた感覚との誤差を修正しながら運動の精度を高めていきます。
一方、筋肉の過緊張や関節の可動不全、痛みなどがあると、身体から得られる情報に「ノイズ」が生じます。
身体が危険な状態にあると判断すると、防御反応として過度な共収縮が起こり、関節を強く固めることで安定させようとします。
関節中心化を獲得するためには、局所的な筋や関節だけを見るのではなく、身体からどのような情報を受け取り、それをもとにどのように運動をコントロールしているのかという視点が必要になります。
体性感覚の再構築と「感覚の再重み付け」

感覚運動システムでは、体性感覚・視覚・前庭覚が重要になります。
人間は状況に応じて、どの感覚情報を重視するかを無意識に変化させています。
例えば、座っているときには坐骨周辺から得られる情報を重視し、立ち上がれば足底から得られる情報の重要度が高まります。
このように状況に合わせて感覚情報の重み付けを変えることが「感覚の再重み付け(Sensory Reweighting)」です。
体性感覚が低下すると、視覚や前庭覚への依存が強くなる場合があります。
視覚に過度に依存した状態では、鏡などの視覚情報がなければ自分の身体の位置を把握しにくくなり、身体を過度に緊張させて安定させようとすることにもつながります。
そのため、まずは体性感覚を再構築し、各関節から適切なフィードバックを得られる状態をつくることが、関節中心化の重要な土台となります。
局所的な介入から動的な関節中心化へ
感覚運動システム全体を見るからといって、局所的なアプローチが不要になるわけではありません。
まずは問題のある部位に対して、過緊張している筋群を緩めるなどの局所的な介入を行い、運動しやすい状態をつくります。
ただし、そこで終わるのではなく、その状態を実際の動作へつなげていくことが重要です。
初期段階では、支持基底面が広くコントロールしやすい姿勢で、過剰に働いている筋群を抑制しながら、働きにくくなっている筋群を活性化する相反的な制御を利用します。
そこから、主働筋と拮抗筋が同時に働く共収縮へ移行し、立位やより高い強度での運動へと発展させていきます。
さらに視覚や前庭覚への要求、三面運動や移動などを加え、最終的には身体そのものではなく外部の課題へ注意を向けた状態でも、無意識に関節中心化を維持できることを目指します。
パフォームベタージャパンサミット2026本編では
今回のプレウェビナーでは、関節中心化を「正しい位置に置くこと」ではなく、感覚運動システムによって動作の中で維持される機能として捉え直しました。
局所的な状態を整え、体性感覚を再構築し、相反的な制御から共収縮へ。
そして、より複雑な環境でも無意識に関節中心化を維持できる状態へと段階的につなげていきます。
パフォームベタージャパンサミット2026では、こうした考え方をもとに、より具体的な介入方法やトレーニングのプログレッションについて掘り下げます。
さらに、もう一つのテーマである「ピラティスとストレングストレーニングの機能的統合」では、一見異なるアプローチをどのように組み合わせ、低〜中強度での運動制御から高強度のトレーニングへつなげていくのかについても紹介される予定です。
Q&A
Q1.ピラティス動作が上手くなったり、赤ちゃんの動作が上手くなったりすることが目的でないことは理解しています。ただ、運動指導中に動作が上手くなったのか、目的が達成されているのか判断が難しい時があります。その度に本来の目的に注視するようにしているのですが、クライアントへの説明が難しい時もあり悩んでいます。
A:
クライアントにシンプルに説明できない場合は、まず指導者自身がその内容を十分に理解できているかを見直す必要があります。
専門家同士では細かな専門用語を使って説明することもありますが、クライアントに対してすべてを伝える必要はありません。
「この人にはこの言葉を伝える」というポイントを整理し、それ以外を省いて要点だけを説明することが大切です。
シンプルに表現できない場合は、まだ自分自身の理解が十分ではない可能性があります。
理解を深めることで、クライアントに対しても必要な情報をシンプルに伝えられるようになります。
Q2.トレーニングによって後天的に獲得できる能力もありますが、発達段階で関節の中心化を獲得できているかどうかがスポーツパフォーマンスに大きな差を生むということでしょうか?
A:
基本的には、発育発達段階で関節中心化を獲得できていないと、その後の運動に問題が生じる可能性があります。
一方で、発育発達段階で十分に獲得できなかったとしても、後天的に再獲得することは可能です。
姿勢や運動の問題、関節の変形などがある場合でも、その時点でできることに取り組みながら、必要な能力を再獲得していくことが重要です。
Q3.脳の予測誤差を減らすために、動作を見ることだけでも予測誤差は減りますか?動いた結果を変えるには、入力を変えることが必要だと思いますが、入力の変化は動くではなく見ることだけでも変わりますか?例えば、スポーツ動作で上手い人の動作を見てから実際に動作をすると入力が変わって結果が変わりますか?
A:
理論上は可能です。
上手な動作を見てイメージし、それを自分の動きとしてアウトプットすることは一つの方法になります。
ただし、視覚情報を自分の運動へ変換する能力には個人差があります。
他者の動きを見て、自分の動きへ変換することが得意な人には、動作を見せるビジュアルキューが有効です。
一方で、その変換が苦手な人の場合は、見ることに重点を置くよりも、実際に動きながら身体で感じてもらう方が適しています。
そのため、「見せる」「動いて感じてもらう」のどちらを選択するかは、個人の特性に合わせて考える必要があります。
Q4.相反制御から共収縮するプログレッションはとても大事だということが理解できたのですが、なぜ視覚から前庭感覚へのプログレッションが重要なのでしょうか?
A:
前庭覚を使ったエクササイズは、視覚を使ったエクササイズよりも運動レベルが高くなることが多いためです。
視覚のエクササイズでは、身体を静止させた状態でも眼球運動や周辺視野を使った課題を行うことができます。
一方、前庭覚への刺激には、頭部を動かしたり加速を加えたりする必要があります。
そのため、静止した状態では実施できず、運動そのものの難易度が高くなります。
こうした理由から、体性感覚→視覚→前庭覚という順序で段階的に進めていくことが重要になります。
