知識は現場で生きてこそ。桂良太郎さんが語る「統合された体系」と「動機付け」と「システム」
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パフォームベタージャパンが普段お付き合いしているトレーナーや関係者をお招きして、施設のこと、専門知識、セミナー活動まで幅広くお話を伺うポッドキャスト。
今回はBest Performance Laboratory代表の桂良太郎さんをゲストにお招きしました。
学んだ専門知識を現場でどう活かすか——このテーマは、知識量が増えれば増えるほど難しくなっていくように感じるものです。パフォームベタージャパンがこのエピソードをお届けするのは、桂さんの言葉が「知識を統合し、体系として持つことの意味」を、施設運営という実践の文脈からくっきりと照らしてくれているからです。創業から10年以上パフォームベタージャパンのサミットやセミナーに登壇し続けてきた桂さんとの対話は、私たちにとっても多くの気づきをもたらすものでした。
桂良太郎さんについて
桂さんはBest Performance Laboratoryを創業し、野球・サッカー・ゴルフ・サーフィン・ハンドボールなど幅広い競技のアスリート指導に携わりながら、施設外でも多種目のパフォーマンスコーチを歴任してきました。施設ではトップアスリートから健康維持・ダイエット目的の一般の方、さらに術前術後のメディカル対応まで幅広い層を対象としています。同業者向けのセミナー事業としてBest Performance Academyも展開しており、メンターシップエデュケーションプログラムは現在34期まで積み上げてきました。
幅広い対応を可能にするのは「統合されたシステム」
Best Performance Laboratoryの特徴として桂さんが挙げるのが、幅広い対象者に対応できる施設であるということです。トップアスリートの横でジュニアアスリートや部活生が練習し、さらにボディビルダーやシビアな医学的判断を要する術前術後の方までが同じ空間にいる——そういう施設です。
この幅広さを可能にしているのは、統合されたシステムを持っているからだと桂さんは分析します。単一の理論だけでは人間へのアプローチに限界があり、複数の知識を体系化して統合することで初めて多様な状況に対応できるようになる、という考え方です。
知識を活かせない、三つの理由
学んだ知識を現場で活かせないのはなぜか。桂さんはこの問いに対して、整理された答えを持っていました。
まず一つ目は、知識が体系化されていないこと。単一の理論を深く学んでも、それをどう実践に落とし込むかがわからない状態では、現場で行き詰まることが多いといいます。
二つ目は、クライアントへの動機付けの仕方を知らないこと。知識があり、体系化もできていても、クライアントが指導を受けたいと思える形でなければ行動変容は起きない。これはどれだけ優れた内容であっても変わらない原則だと桂さんは言います。
三つ目は、システムがないこと。これらを全部再現性高く結果に結びつけるためには、仕組みが必要です。桂さんはこの三つを「統合された体系化されたものと、クライアントを動機付けできるノウハウと、システム——この三つが揃っていないといけない」と言い切っていました。
なぜ初回に長い時間をかけるのか
施設の特徴的な取り組みのひとつとして、桂さんは初回のSOAP(主観的情報・客観的情報・評価・プランのプロセス)に長い時間を設けていることを挙げました。
その理由として語っていたのが、自己認識と現実のギャップの問題です。桂さんが引用したアメリカのデータによれば、60%のアメリカ人が慢性疾患を抱えており、40%が二つ以上の慢性疾患を持ち、50%が筋骨格系の症状を訴えている。にもかかわらず、81%の人が自分の体や健康状態を良好または極めて良好だと信じているという調査結果があるといいます。
この乖離を本人に認知させることが、行動変容につながる最初のファーストアクションだと桂さんは考えています。だからこそ初回に十分な時間を取って、そのギャップを体感してもらうことを重視しているそうです。
リハビリとトレーニング、トレーニングと競技の境界線
競技特異的なアプローチについて聞くと、桂さんは運動制御理論や運動学習理論、競技への転移(トランスファー)などを2015年頃から学び始めたことを話してくれました。そこから辿り着いた結論が、トレーニングと競技の間に明確な境界線はないという考え方です。
ここまでがフィジカルトレーニングでここからがスキルトレーニング、という線引きはできない。両者はオーバーラップするものであり、だからこそトレーニング施設の中で競技動作に近しい動きや環境を再現できることが重要になってくると桂さんは言います。どの程度考慮しているかという問いへの回答は難しいとしながらも、非常に大事だという認識のもとで、特にトレーニング直後に競技の動きができる環境設定を意識していると話していました。
この考え方はリハビリとトレーニングの境界線についても同様で、明確に分けられないグレーゾーンが存在すると桂さんは捉えています。だからこそ、各職域をお互いにリスペクトした上で、関係の質・思考の質を高いレベルで共有することが大事だと強調していました。
結果が出ない時、問われるのは「行動」より「関係と思考」
結果が出ない状況が起きた時、多くの場合「なぜその行動をしなかったのか」という問いかけになりがちです。しかし桂さんは、それは違うと言います。
関係、思考、行動、結果という順番で考えると、行動が伴わない根本的な原因は、思考が共有されていないこと、そして関係の質があまり高くないことにあることが多い。結局のところ、信頼関係の構築にすべてが帰結するというのが桂さんの見立てです。クライアントとの関係においても、チームスタッフとの関係においても、この構造は変わらないと話していました。
設備は「知識を活かすためのツール」
施設を2024年2月頃に拡張し、器具も継続的にアップデートしていることについて聞くと、桂さんはその理由を明確に語りました。制約主導アプローチなどを実践するにあたって、ツールや環境がクライアントの自己組織化を促す上で不可欠だという考え方です。
ただし重要なのは、ツールありきにはならないということでもありました。一つのツールしかない環境でも2時間のセッションは十分できる、というのが桂さんのスタンスです。自身が実践しているシステムときちんと噛み合うツールを選ぶことが必要で、そこにこだわりを持っていると話していました。
現場の制約への対応という観点では、原理原則を理解していればツールが変わっても代替できると桂さんは言います。5キロプレートと10キロプレートしかない環境でも、原理原則が分かっていれば十分対応できる。いつもセミナーで伝えているという「原理原則かメソッドか」という問いは、この考え方の核心を表していました。エクササイズをただのテクニックとして暗記しているだけでは、状況に応じたモディファイができない——だからこそ、なぜそれが必要なのかを理解することが大切だと桂さんは繰り返していました。
統合して学ぶことの意味——部分最適と全体最適は異なる
Best Performance Academyのメンターシッププログラムについて、桂さんが語るのは「統合された一つのコンディショニングとして提供したい」という思いです。
筋膜リリース、呼吸、モーターコントロール、プライオメトリクス、ムーブメントスキル、ローテーショナルパワー、ストレングスアンドコンディショニング、エネルギーシステムディベロップメント、リジェネレーション——これらをバラバラに学ぶことも素晴らしいけれど、結局これらは前後に全て意味があるものとして繋がっている。だから一つのパッケージとして学ぶことに意味があると桂さんは言います。
部分から学び始めても全体から学び始めても、どちらでもいい。ただ唯一確実に言えることは、部分最適と全体最適は異なるということです。部分が最適化されたことが全体最適につながるわけではなく、具体と抽象を行ったり来たりすることが重要だという考え方は、長年の実践から積み上げられた実感から来ています。
また、遠回りしないと深みは出ないとも桂さんは言います。ただし試行錯誤すること自体を是としているわけではなく、試行錯誤することが目的になってはいけない。自分たちが20年かかったことを次の世代は5年で同じところまで辿り着けばいい、そこから試行錯誤すればいい、というのが桂さんの考え方です。学習の効率化と、それでも省けない経験の積み上げ、その両方を視野に入れている姿勢でした。
トレーナーという職業を、もっと夢のある仕事に
収録の終盤、桂さんは業界全体への視点を語ってくれました。日本スポーツ協会の調べとして引用されていたデータによれば、アスレティックトレーナーのトレーナー活動による年収が100万円以下というのが38%、100万から200万円が10%、つまり48%がトレーナー活動による年収が200万円以下という現状があるといいます。
少なくとも日本の平均年収と言われる水準が稼げるような、きちんとした職業にしていきたい。学術的な活動も大事だけれど、きちんとサービス業としてトレーナー業を捉えることが重要だと桂さんは言います。メンターシッププログラムの中でも、ホスピタリティやサービス業における心構えをカリキュラムの一部として扱っているのは、この思いの延長にあります。
この話を受けてパフォームベタージャパンとしても、創業から11年が経つ中でトレーナーの地位向上や活躍の場を広げようというメッセージを発し続けてきたものの、最近そのメッセージが弱くなってきたのではないかという問題意識が改めて呼び起こされました。桂さんも同じタイミングで同じ問題意識を持っていたというその対話は、この回で最も記憶に残るシーンの一つでした。
おわりに
桂さんが今回繰り返し語ったのは、統合すること、体系化すること、原理原則から考えること、そしてトレーナーという職業に夢を持てる環境をつくることでした。知識は持っているだけでは宝の持ち腐れ——という言葉の背景には、学べば学ぶほど自分がいかに知らないかを知ることになるという、長年の実践から来る謙虚さがありました。
パフォームベタージャパンが大切にしているのも、この積み上げと統合の姿勢です。良質な知識を現場で活かすためのツール・設備・学びの場を提供し続けることが、トレーナーという職業の可能性を広げることにつながると信じています。
桂さんへの質問、または今後取り上げてほしいテーマがあれば、パフォームベタージャパンまでお気軽にお問い合わせください。
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