トレーナーこそ、栄養を学ぶべき理由。川合智さんが語る「人の身体の専門家」という視点
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栄養指導は、栄養士や管理栄養士だけの仕事ではない。そう言われると、少し構えてしまう方もいるかもしれません。「専門外のことを教えていいのか」という不安と、逆に「自分のダイエット経験を根拠に自信満々で話してしまう」というケース。現場のトレーナーには、この両極端が意外と多いようです。
パフォームベタージャパンがこのエピソードをお届けするのは、栄養の知識がトレーナーの活躍範囲を拡げる可能性があるからです。今回は、運動療法と栄養療法を実践し、全国でセミナー・講演活動を行う川合智さんをゲストにお招きし、「トレーナーが実践する栄養指導」をテーマに語っていただきました。
川合智さんについて
川合さんは日本統合療法株式会社の代表を務め、運動療法と栄養療法を土台とした統合療法を指導しながら、様々な慢性不調を抱える方のサポートやアスリートへの栄養アドバイスを行っています。現在は全国でのセミナー・講演活動に加え、パーソナルジム「PMパフォーマンス」も運営。もともとはボクサーとしてのキャリアを持ち、トレーナーとして活動するなかで栄養療法を本格的に学んだという経歴の持ち主です。現在は自身のオンラインアカデミー「栄養の力アカデミー」のほか、AZCARE ACADEMYが提供するオンラインサロン「PLAZ+」、ケンコーTVが主催する「1upアカデミー」、TTEAが展開する症例紹介コンテンツ「THE SHOWCASE」などで定期的に講義を提供しています。
「栄養、難しそう」と思っているトレーナーへ
川合さん自身、もともと栄養の専門家ではありませんでした。ボクサー時代は当時の書籍を頼りに「基礎代謝以下に抑えれば痩せるはず」という単純な足し算引き算で減量を試み、メロンパンだけで一日をやり過ごすような食生活を送っていたといいます。体重は確かに落ちたものの、体調は悪く、花粉症もひどくなった。それが栄養を本気で学ぶきっかけのひとつだったと話してくれました。
そういった経験を経て今の川合さんが言うのは、「栄養はそんなに構えるものじゃない」ということです。トレーナーを含む運動指導者はすでに毎日食事をしていて、栄養素についてのざっくりした知識も持っている。それを少し掘り下げるだけで、クライアントへの対応力は大きく変わる。むしろ川合さんは、すべての運動指導者・ヘルスケア従事者に栄養の知識を取り入れてほしいと考えています。
その理由として挙げるのが、パーソナルトレーナーは「人の身体の専門家」であるべきだという考え方です。人の体が動くためにはエネルギーが必要で、そのエネルギーは食事からしか来ない。運動療法の知識だけでは、人の体の全体像を支えきれない、というのが川合さんの一貫した立場です。
まず枝葉より幹を先に、三大栄養素から。
では、栄養を学び始めるとしたら何から手をつければいいのか。川合さんの答えは明快で、「三大栄養素を掘り下げること」です。
栄養療法の世界では、ビタミンやミネラルの話が多くなりがちです。もちろん不足すれば病気につながりますが、川合さんが実際のカウンセリングで繰り返し目にするのは、そこではなく「そもそも三大栄養素がちゃんと取れていない」という問題です。
慢性疲労を訴えてやってくる方が、朝は抜き、昼はパンとスープだけ、夜は肉と少量のご飯——というような食生活をしていることは珍しくない。あるいは、貧血改善のために鉄サプリを飲んでいるのに一向に改善しないというケースでは、ヘモグロビンが「鉄を含有するタンパク質」であることを踏まえると、タンパク質不足や糖質不足が実は根本にあることがある。枝葉(ビタミン・ミネラル)ばかりを見て、幹(三大栄養素)がおろそかになっているために改善しない——そういう例が多いと言います。
「体を大きくしたいのにBIG3をやらせていない」トレーナーの話を引き合いに出しながら、川合さんは笑ってこう言いました。栄養の話も同じで、基礎中の基礎を押さえることで意外なほど多くの不調に対応できる。その事実に気づくことが、第一歩だと。
「栄養素学」ではなく「栄養学」を
三大栄養素を学ぶ際、川合さんがセミナーでよく伝えることがあります。「栄養素学になってはいけない」という話です。
栄養とは、食べ物を口に入れて消化・吸収し、代謝するまでの一連の過程を指します。ところが、食品に含まれる栄養素だけを考えていると、その「代謝」の部分が抜け落ちてしまう。たとえば、筋肉がなかなかつかない・体重が増えないという方に消化不良が潜んでいることがある。カロリーもタンパク質も計算上は十分なのに、消化吸収の段階で問題が起きて、栄養素が体に入っていかないというケースです。
三大栄養素を深く掘り下げていくと、結局は人体そのものを学ばなければならなくなります。タンパク質の消化吸収の難しさ、脂質の代謝に必要な胆汁や膵液の役割、血液中を栄養素が巡るまでの時間 — こうした知識が積み重なることで、栄養療法として使える知識になる。これはトレーニング指導でも同じだと川合さんは言います。スクワットやスプリットスクワットを覚えるだけでは、関節の動きや体の使い方を理解していなければ効果的な指導はできない。栄養もトレーニングも、最終的には「人の体の専門家になること」がゴールだという考え方は、どちらの文脈でもぶれません。
栄養と運動を組み合わせると、何が変わるか
川合さんがパーソナルジムで実際に行っている指導では、運動指導が軸にあり、栄養の話は会話の中で自然に入ってきます。ボディメイクの話をしているだけで、睡眠の質が悪い・花粉症がきつい・風邪を引きやすい、といった困りごとが出てくる。そういう場面で栄養の知識があると、運動指導の延長として対応できることが増えると言います。
具体的な広がりとして、川合さんが挙げるのは内科的疾患への対応です。高血圧、二型糖尿病、高尿酸血症(痛風)など、運動の重要性はわかっていても、食生活の問題が根本にあるケースでは、運動療法だけでは適切な指導ができない。栄養療法と組み合わせることで、そういった方も担当できるようになる。
アレルギー症状についても同様です。花粉症などのアレルギーは粘膜や免疫系の破綻から来ており、栄養療法でかなり寛解できると川合さんは言います。また、慢性的に風邪を引きやすい方の免疫機能の低下にも、栄養療法で介入できる。こうした「ちょっとした困りごと」への対応力こそが、トレーナーとしての引き出しの広さにつながります。
睡眠の質についての話も印象的でした。川合さんが栄養カウンセリングをした選手のなかに、以前は1日10〜11時間眠らなければ回復できないと話していた方がいました。食生活を確認すると血糖値の変動が大きくなりやすい内容で、睡眠中に低血糖になっていたことが全然休めていない原因のひとつだったと考えられます。食生活を変えてもらうと、8時間ちょっとで十分回復できるようになったと言っていたそうです。これはアスリートに限らず、「何時間も眠れない」「眠っても疲れが取れない」と感じている一般のクライアントにも通じる話です。睡眠の質が上がれば、日中のパフォーマンスが上がり、ジムに通い続ける活力にもつながる。そういう連鎖があると川合さんは言います。
現場の実例—痛みが消えた、あるアスリートの話
栄養と運動の組み合わせが特に印象に残った事例として、川合さんが話してくれたのは、肉離れの痛みがなかなか改善しないアスリートのケースです。
運動療法や徒手療法を受けていても、痛みが一時的に和らぐだけで定着しない。調べると、体重を増やしたくないという理由でケトジェニック食(1日20〜50g程度の糖質)を続けていました。川合さんは、痛みを抑える脳のメカニズムに糖が使われるという知見をもとに、糖質不足が痛みを抑えにくくしているのではないかと考え、糖質摂取量を一般的な食事レベル(1日150〜180g程度)に引き上げることを提案しました。その後、痛みが不思議なほど消えたといいます。
川合さんはこれについて、確定的な断言はせず「そういうメカニズムがあるらしい」という留保を添えながら話してくれました。ただ、運動と栄養の両方にアプローチしなければ見えてこなかったケースであることは確かで、「特にアスリートは運動と栄養の両方をやらないといけない」という実感を深めた経験だったと言っていました。
トレーナーの引き出しを広げることが、クライアントを守る
今回の話を通じて、川合さんが一貫して伝えていたのは「専門外だから」と遠ざけるより、基礎から学んで引き出しを増やすことの大切さです。難しい症例や自分の手に余ると感じるケースは、しかるべき専門家に紹介すればいい。その判断ができるためにも、最低限の知識を持っておくことが必要です。
パフォームベタージャパンが川合さんをゲストにお招きしたのも、同じ思いからです。現場で使える知識と、それを届ける誠実な姿勢。川合さんの言葉には、自身の失敗経験から積み上げてきた重みがあります。「まず基礎中の基礎を押さえる」—その一歩が、トレーナーとしての幅を確実に広げると、私たちも信じています。
川合さんへの質問、または今後取り上げてほしいテーマがあれば、パフォームベタージャパンまでお気軽にお問い合わせください。
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