今回は、先日開催した近藤拓人先生による無料ウェビナー「TUSS(不安定な接地面上でのトレーニング)の活用法」の内容の一部をご紹介します。
TUSSの理論的背景と実践的な活用方法について解説いただきました。
不安定面での運動がもたらす神経筋への影響や、目的に応じた効果的な導入のポイントを整理し、現場ですぐに活かせる内容となりました。
■テーマ:TUSS(不安定な接地面上でのトレーニング)の活用法
■開催日:2026年1月24日
■講師:近藤 拓人 氏(AZCARE代表/NEXPORT代表)
TUSSとは?
TUSS(Training on Unstable Surface)とは、BOSUやバランスディスクなど不安定な接地面上で行うトレーニングの総称です。
近年は「不安定だから良い」ではなく、「不安定性をどのように活用するか」という目的意識が重要とされています。
この考え方は、神経筋制御や感覚統合の理解にも直結しており、姿勢・動作の再学習の一環として位置づけられます。
現場では、リハビリからアスリートへの感覚の再教育まで幅広く応用されており、目的の明確化が最も重要なポイントとなります。
メリット
1.筋活動の増大
不安定面上では姿勢保持に関わる深層筋の活動が増し、局所的な筋活動が増大する。
姿勢安定を目的としたトレーニングとして有効です。
ただし、力を発揮するトレーニングではなく、姿勢を保ちながら協調的に動く練習として捉える必要があります。
2.固有受容感覚の強化
不安定面での運動は、関節内の固有受容感覚を賦活させる効果があります。
慢性足関節不安定症のリハビリなどで有効とされています。
不安定性の程度を段階的に設定することで、末梢からの感覚入力を安全に高めることができます。
3.運動連鎖の促進
不安定環境では体幹と四肢が協調して働くため、運動連鎖を促進する効果があります。 特に姿勢制御や動作学習に応用できます。
スポーツ現場では、全身の連動を意識づける“プレトレーニング”として導入されるケースも多いです。
デメリット
1.特異性の原則
不安定面で習得した動作は、安定した環境に直接転移しにくく競技動作に直結させるには特異性の原則を理解しておく必要があります。
したがって、TUSS単体ではなく安定環境でのトレーニングと組み合わせて行うことで効果が最大化されます。
2.力発揮の欠如
不安定環境では床反力を十分に得られないため、最大筋力やパワートレーニングには不向きです。
出力向上を目的とする段階では、安定した環境での動作学習へ移行することが推奨されます。
3.過緊張の助長
不安定面では安定を保とうとする反射的な筋活動が起こり、過緊張を助長する可能性があります。
リラックス目的のトレーニングには適しません。
過緊張傾向のクライアントには、安定環境で呼吸制御や重心感覚を整えてから導入すると効果的です。
4.筋機能のアンバランス
不安定性が過度に強い環境では、動的筋が優位となり、支持筋が抑制されることがあるため、目的に応じて不安定性の調整が必要です。
フェージックマッスル/トニックマッスルのバランスを理解したうえで、段階的に刺激を変化させることが重要です。
TUSSの実際の効果
固有感覚受容器の賦活
使用器具:BOSU https://www.performbetter.jp/products/bs-pbt
TUSSは固有感覚受容器を賦活し、慢性足関節不安定症へのアプローチとして有効です。
BOSUを用いたシングルレッグルーマニアンデッドリフトは、安定性と感覚入力の再学習を促す代表的エクササイズです。
感覚入力を“増やす”のではなく、“必要な感覚を選択させる”意識で行うとより効果的です。
筋動員パターンの多様化
使用器具:BOSU https://www.performbetter.jp/products/bs-pbt
不安定面での動作は、安定面とは異なる筋動員パターンの多様化を引き出します。
BOSU上でのニーリングヒップヒンジでは、体幹と下肢の協調性が高まります。
同じ動作でも環境を変えることで、新たな運動解決パターンを学習するというCST(Contextual Strength Training)的な視点とも親和性が高いです。
脳内身体地図(ボディマップ)の変化
使用器具:BOSU https://www.performbetter.jp/products/bs-pbt
不安定環境での動作は、脳内のボディマップ(身体地図)を再構築します。
BOSU上でのスクワットなどは、動作に対する感覚情報の統合を促すトレーニングとなります。
神経系の可塑性を利用して“身体の使い方”を再プログラミングするという観点からも意義が大きいといえます。
感覚の再構築(ウェビナーの主題)
使用器具:エクササイズボール 65cm https://www.performbetter.jp/products/sds-65
TUSSの目的は、単なるバランス能力向上ではなく感覚の再構築にあります。
不安定な環境での動作を通じて、視覚・体性感覚・前庭感覚など複数の情報源を再統合し、身体の反応様式を最適化するトレーニングです。
“どの感覚を優位に使って動いているかを再教育すること”。
感覚を整理し直すことで、動作の安定性と自由度が同時に高まる効果があります。
Q&A
Q1: 過緊張しやすい人が不安定な場所で運動すると過緊張を助長してしまうのは理解できました。ただ、過緊張ではない人がリラックスを目的としてエクササイズするのはメリット期待できませんか?BOSUの上で片足で立ち上半身をリラックスさせるなどよく紹介されているので疑問に感じました。
A:
リラックス目的で行うのはあまりおすすめしません。
不安定な環境って、それ自体が“緊張を生む刺激”になるんですよ。
過緊張じゃない人でも、体が安定を探して力んでしまうことがあります。
その結果、筋出力が落ちたり、協調性が下がったりする。 だから、リラックスさせたいときは安定した環境で呼吸とか姿勢制御を使って整える方が効果的です。
意地悪なことを言ってしまいますが、過緊張でない人がリラックスする必要がありますか?
運動療法というのは優先度を決めなければならないです。
その人にとって必要なことを、優先度の高い順にやっていくべきです。
過緊張でない人の場合、リラックスさせることよりも、運動の多様性を広げたり、屈曲・伸展・側屈・回旋といった動きを出していったり、あるいはパワーを上げていく方が優先度は高いと思います。
もちろんやってはいけないわけではないですが、僕たちは1本50分のパーソナルトレーニングでお客様に提供しているので、その限られた時間の中で、より必要なことにフォーカスするようにしています。
Q2: TUSS を活用して運動連鎖で体幹部の安定性が向上して四肢への伝達が良くなることに懐疑的とのことですが、TUSS を体幹部の安定性を目的として活用するには、デメリットの方が大きいと考えて問題ないでしょうか。
A:
はい、その理解で大丈夫です。
体幹を“安定させる”ことを目的にするなら、安定した環境でやった方がいいです。
TUSSは体幹を“安定させる”というより、“反応させる”トレーニングなんですね。
だから、体幹の安定性を高めたい場合にはあまり適していません。
Q3: ウォーターバッグを使ったトレーニングもTUSSと似たような効果が得られますか?
A:
似ていますね。
ただ、ウォーターバッグは外乱刺激が中で動くので、“内的な不安定性”が作られるタイプです。
BOSUとかバランスディスクみたいな“接地の不安定性”とは少し違います。
でも、両方をうまく組み合わせるとすごく実践的になります。
Q4: 股関節の不安定性があるから、そこに対して強収縮を行わせることは効果的であるとおっしゃられていたと思いますが、股関節の不安定性があるかどうかはどのように評価すればいいのでしょうか?
A:
片脚立位での重心の移動の仕方とか、スクワットをしたときの股関節の沈み込み方を見ます。
骨盤や仙骨が一緒にグラグラ動くようなタイプは、股関節が不安定なことが多いです。
あとは片脚で静止できるかどうか、そのときのブレの方向を見るのもヒントになります。
Q5: 下半身のトレーニングとして採用されることが多いBOSUですが、プッシュアップなど不安定下で行う上半身に対するトレーニングとして、どのような目的で採用される可能性がありますか?
A:
プッシュアップとかショルダープレスを不安定面で行う場合は、体幹と上肢の協調を目的にしています。
不安定な中で体幹が反応的に働くことで、肩甲帯の安定にもつながります。
なので、上半身を鍛えるというより、上肢と体幹の連動を作るという位置づけです。
Q6:TUSSエクササイズにおける不安定症レベルと緊張度合いについて質問です。何かしらのエクササイズを実施して、明らかな過緊張が見られた場合は不安定性のレベルを下げますが、適度な不安定症と緊張のバランスの見極めが難しいと感じます。エクササイズレベルの調整において注意していることがあれば教えてください。
A:
一番大事なのは“目的を明確にすること”です。
過緊張が見られたら、その場で不安定性を下げます。
不安定な刺激は脳の興奮を上げるので、少しの違いで全然反応が変わります。
クライアントの状態に合わせて調整するのが基本ですね。
Q7:TUSS を使用することで、側部の固有受容器にいい働きをもたらすとのことですが、バランスディスクの後にBOSUを使うなどして、一つのエクササイズで複数のツールを用いることは、より固有受容器の活性として有効と捉えてもよろしいでしょうか?
A:
感覚入力を変えたいときには有効です。
でも、1つの動作にいくつも不安定要素を入れると、どこを使っているのか分からなくなります。
狙いを明確にして、1つの不安定性を意図して使う方が効果的です。
Q8:TUSS をする際、裸足とシューズを使い分けますか?
A:
はい、使い分けます。
足裏の固有感覚を引き出したいときは裸足でやりますし、競技に近い状況を作りたいときはシューズを履かせます。
同じ種目でも目的によって変える感じですね。





