Trainer's Journeyと題し、スタートしたシリーズ企画。
この企画では、精力的に活動されている若手・中堅トレーナーの皆さまにお話を伺い、ご自身の指導で大切にしていることや、そのように考えるようになったきっかけ、今後挑戦したいことなどを深掘りしていきます。
第6弾は、宮城県仙台市でBody studio GRACEを経営されている 髙橋 麻美(たかはし あさみ) さんにお話をお伺いしました。
バレエダンサーから空中ヨガへの転身
ーこれまでの経歴について教えてください。
髙橋:5歳からクラシックバレエー筋で、高校卒業後はアメリカに渡り、プロのバレエ団の研修生のような形でダンサーとして活動し、プロとしての最後はミュージカル『オペラ座の怪人』パリ公演のダンサーキャストに入ったのですが、リハーサル中に劇場が火事になり、公演が中止になって帰国を余儀なくされました。
帰国後もしばらくはダンサーとしての活動をなんとなく続けたものの、本当に自分がやりたいことは何かと考えて、一度バレエから離れた時期があります。
その間に体重が10kgほど増えてしまい、気持ちも落ち込んでいました。
そんなときに新しく挑戦したのが空中ヨガで、体験してみたら身体の中に空間ができていき、スッキリした感覚が純粋に面白く、その流れでインストラクターを始めました。
「身体と心が変わる」体験をきっかけに、本格的に運動指導の道へ
ー空中ヨガだけでなく、現在は幅広い運動指導を提供されていますが、このスタイルに変わったきっかけは何だったんですか?
髙橋:きっかけは“自分の身体と心が変わった体験”です。
長年悩んでいた膝や腰の不調が、あるトレーナーの指導で改善し、身体が変わると心まで元気になるのを実感しました。
「私にもまだ可能性がある!」と感じられたことが大きかったですね。
この感覚や悩みの解決を知らない人の助けになれたらいいなと思い、そのトレーナーの方に「運動指導者として何から学べばいいですか」と相談して、山本邦子さんのA-Yogaの養成を紹介していただいたのが転機で、この道を極めよう、もっと勉強しようと思えたことが本格的に運動指導者を目指す大きなきっかけになりました。
その後、2020年6月に以前から勤めていた空中ヨガのスタジオを事業譲渡という形で受け継ぎ、代表になりました。
7人制のグループレッスンのスタジオだったのですが、コロナ禍だったので人の密集を避ける必要もあり、パーソナルトレーニング事業も始めました。
はじめはトレーナーとしての知識がほとんどなく、スタジオレッスン以外のパーソナルトレーニングに関しては採用したトレーナーに任せるしかない状況でしたが、「任せ切りではいけない」と痛感して自ら徹底的に学び直し、私自身もパーソナルトレーニングの指導を本格的にスタートしました。
「美しい人生」を体現する指導
ー現在のお仕事、トレーニング指導で特に大事にしていることを教えてください
髙橋:Body studio GRACE北仙台では、グループレッスン(約10種)とパーソナルトレーニングの両方を提供しています。
20〜70代の女性が中心で、姿勢改善やボディメイク、機能向上、バレエダンサーのメンテナンスなど、それぞれの目的に合わせた指導を行っています。
私自身、バレエ一筋の人生から新しい運動に挑戦したことで、知らなかった自分に出会うことができました。
その経験から、運動に挑戦することで身体や心に新しい反応が生まれ、最適な動作や美しい振る舞いを身につけることで、身体も思考も柔軟に、美しく変わっていくと信じています。
会社として大切にしているのは、「新しい挑戦を続けることが、美しい人生を歩むことにつながる」という考え方です。
特に女性は、空気を読んで本当に言いたいことを飲み込んでしまったり、一歩踏み出せない場面が多いと感じます。
だからこそ、GRACEは安心して新しい挑戦に取り組める場所であり、“自分らしく輝ける場所”でありたいと考えています。
そして、小さな挑戦や選択の積み重ねが、自分らしい生き方をつくり、人生をより美しくしていくと信じています。
GRACEには大きく二つの指導形式があり、ひとつはグループレッスンです。
A-Yogaの学びをベースに、ポーズそのものよりも“動き出す前の体と心の状態”にも目を向けます。
A-Yogaの学びをベースに、「動きを通して感覚を育てることが、健康やパフォーマンス、そして人生の質の向上につながる」という概念の中でも特に印象的なのが、人は予測によって動かされる存在であり、「予測 → 動作 → 誤差検出 → 修正 → 新しい予測」という循環で成長していく、という考え方です。これは山本邦子さんから教わった大切な学びです。
この考えをもとに、お客様の動きをより引き出すため、感覚に意識を向けられるような言葉選びを心がけています。
たとえば、同じ腕を伸ばす指示でも、「指先から光が出て天井まで届くように」や「わきの下から空気が入って腕がふわっと持ち上がるように」と表現を変えるだけで、動きの力強さや柔らかさといった感覚やイメージが大きく変わります。
そこから生まれる感覚や動きを土台にレッスンを進めています。
もうひとつはパーソナルトレーニングです。
こちらは根城祐介さんのActive-Aid Programの学びをベースに、「予想・把握 → 評価 → 修正 → 再評価」を軸に、お客様それぞれの状況や目標に応じたプログラムを組んでいます。
さらに、AZCAREさんのPilates synthesisやLMSでの知見を取り入れ、必要に応じて山本邦子さんや沓脱正計さんの手技療法やセルフケア指導も組み合わせながら、身体の本質的な変化をサポートしています。
スタッフ間でも、A-YogaやActive-Aid Programで学んだことを共通理解にし、常に「その人にとって最適なアプローチは何か」を考えています。
お客様の内面と身体面の変化、どちらも大切にしながら、サービスを提供することを心がけています。
任せる痛みから学んだ、チームづくりの基準
ー 組織作りで大切にしていることはありますか?
髙橋:「まず自分がやってみる。そして指導する上でベースになるセミナーや研修を同じ様に受講してもらう」ことです。
例えば、A-yogaの養成は、私が学んだ翌年にスタッフ全員に受講してもらいました。
また、Active-Aid ProgramやAZCAREさんのピラティス関連、LMSなどのセミナーや養成コースも、スタッフと一緒に学びました。
イベントや企画も、まず自分が一度実践して要領をつかみ、そのうえで段階的にスタッフに任せます。
その過程で成功体験を共有しながら、スタッフとの信頼関係を築いてきたと思います。
ーこれまでに苦労したことやそこからの学びを教えてください。
髙橋:一番の苦労や悩みは“任せること”でした。
私自身、大手に勤めた経験もなく、順序立てられた研修を受けたこともありません。
努力しなければ選ばれない世界にいたので、自ら学ぶことが当たり前だと思っていました。
最初は、その「当たり前」をスタッフに押し付けてしまい、私が担当していたお客様をスタッフに任せるときも、「なんでこうしないんだろう?」「なんで自分から学ばないんだろう?」と、価値観の違いに戸惑うことがありました。
でも、普通に入社したばかりのスタッフにそれ以上をいきなり求めるのは違うな、と気づきました。
また、雇用する以上、スタッフの人生を預かる責任の重さにも不安があり、管理一辺倒に振り切った時期もありましたが、そのときのスタジオの空気は自分の好みではなく、長く働きたい環境ではないと痛感しました。
そこからは、個々の背景や感情に耳を傾けるようにし、スタッフ一人ひとりの大切にしている価値観(時間・収入・家族・学び)や、これから叶えたい夢を日々の会話から拾うようになりました。
そして「会社としてどうサポートできるか」を考えるようになったんです。
結果、施設の雰囲気が良くなり、お客様同士の交流も自然に生まれました。
正解はないと思いますが、アットホームな雰囲気がGRACEらしさだと、今は思っています。
今まで一緒に働いてくれたスタッフ、そして今も支えてくれているスタッフのおかげで、今の私とGRACEがあります。
今では、先回りして準備してくれたり、私が抜けていた仕事をリマインドしてくれたり、イベント企画もほとんど任せられるようになり、とても頼もしい存在に成長してくれています。
現場が好き。だからこそ学び続けて還元する
ートレーナーとしての業務で1日中忙しいと思いますが、ご自身の時間はどう確保されていますか?
髙橋:営業時間は9時〜22時。グループは1〜3本、パーソナルは5〜7、8本入る日もあります。
フルで入ると休憩がほとんど取れない日もありますが、曜日ごとに“予約を入れない枠”を決め、外部指導や事務作業、数字の管理、スタッフのための時間に充てています。
現場が大好きなのでセッションは多めに持ちますが、経営の時間を確保することも意識しています。
ーインプット方法についてご自身で工夫されていることはありますか?
髙橋:オンラインサロンPLAZ+を使った日々の学習、A-Yogaの養成講座の再受講(認定者の復習参加)、Active-Aidの再受講制度を活用した“同じ内容を違うタイミングで学び直す”ことも大切にしています。
一度で理解しきれないことも立場やその時の状況で、2回目・3回目で腑に落ちる瞬間がある。
私は器用ではないので、反復で体と頭に染み込ませるタイプです。
あとは月1回ほどNEXPORT(ネクスポート)さんに足を運び、セッションの受け手として学ぶことも続けています。
言葉がけや評価手順、道具の配置など、トレーニング内容だけでなく、声のトーンや配慮、コミュニケーションの間合いなど、現場の温度感ごと吸収できるのが大きいです。
それを施設に持ち帰ってスタッフに伝えることも私にとってはとても大事だなと感じています。
肩書きは未定、でも目指す姿はくっきり
ー憧れのトレーナー像はありますか?
髙橋:やはり一番は山本邦子さんです。
知識や技術の高さはもちろんですが、人としての在り方、人の人生への関わり方まで強く影響を受けています。
身体が変わって心も変わる。そのプロセスに寄り添い、言葉で未来の可能性を開く。
そんな在り方に近づきたいです。
ーチャレンジしたいことはありますか?
髙橋:より大きな施設にしたいです。
幅広いアプローチをするためにマシンピラティスもフルラインで導入したいです。
単なるブームとしてのピラティスではなく、ピラティスを“幅広いアプローチの一つの方法”として活用したいと思っています。
お客様もスタッフもライフステージのどの局面でも“動ける喜び”か感じられる施設をつくりたいです。
あとはそんな施設を作ることを実現するには仲間の存在が不可欠です。
スタッフ一人ひとりの可能性が広がり、自分の夢を持ち、前向きに挑戦できるチームや環境づくりもしていきたいと思っています。
ー今後の個人の目標は
職業の肩書きは、空中ヨガインストラクター/経営者/ピラティスインストラクター/トレーナー…と、いろいろ当てはまりますが、肩書きよりも、実際にやっていることを大事にしたいなと。
運動を教えるだけでなく、お客様が“今日ここに来てよかった”と感じ、自分の身体の可能性に気がついたり、気持ちが前向きになれて夢や目標に向かって一緒に安心して進んでいけるような存在になりたいと思っています。
プロフィール
髙橋 麻美(たかはし・あさみ)
5歳からクラシックバレエを始め、海外でダンサーとして活動後に帰国。空中ヨガと出会いインストラクターへ転身。2019年に仙台のスタジオに所属し、2020年に事業を継承してBody studio GRACE代表に。A-YogaやActive-Aidを基盤に、グループレッスンとパーソナル指導を通じて、姿勢・機能改善からボディメイク、ダンサーのメンテナンスまで幅広くサポート。安心して新しい挑戦に取り組める場所であり、“自分らしく輝ける場所”でありたいと願い活動している。