日々新たなトレーニング理論が増えていく中で、インプットした内容を日常のクライアント指導にどう活かせばよいのか悩んでいるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本コラムでは、最新のトレーニング理論やそれを現場に活用するために必要な器具をご紹介します。ぜひ、日常の指導にお役立ていただけますと幸いです。
今回はFMS(Functional Movement Screen)の創設者 Gray CookがPERFORM BETTER本社のブランドサイトに寄稿した「新しい視点で見るバランス」をご紹介します。
既に多くの施設に導入いただいている「ケトルベル」を活用した内容になっておりますのでぜひ最後までご一読ください。
バランスを再考する:新しい視点で見るバランス
著者:Gray Cook(FMS)
私の最初の著書『Athletic Body in Balance』は、キャリアの初期に目の当たりにしたことへの反応として書きました。
スポーツと整形外科の理学療法士、そしてパートタイムのストレングスコーチとして、さまざまな身体の動きや活動を見てきました。
そこでは多くの予想外の発見をしましたが、特に感じたのはアスリートや患者、クライアントの評価を行う際の「均等性の欠如」でした。
「均等性」という言葉を使う際に意味するのは、動作やフォームなど身体機能における以下の全てを含めてご理解ください。
・上半身の発達が過剰で、下半身が未発達
・下半身の発達が過剰で、上半身が未発達
・特定の部位に制限がある一方で、他の部位に制限がほとんどない
・一部の動作パターンで制限が顕著だが、他のパターンには制限がない
・身体の前面の筋肉の発達が過剰で、後面の筋肉が未発達
・身体の後面の筋肉の発達が過剰で、前面の筋肉が未発達
・プッシュ動作は得意だが、プル動作は充分にできない
・プル動作は得意だが、プッシュ動作は充分にできない
・身体の左右の非対称性
これらのうち、特に左右の非対称性は怪我のリスクに関連しているエビデンスが出ています。
実際、私の講義の多くは、動作スクリーニングや評価を通じて非対称性や運動制御の問題を発見し、それが怪我や再傷害のリスクファクターであることに焦点を当てています。
私の専門的な仕事は、常にエビデンスと研究に基づいていますが、それに加えて他の要素にも配慮しています。
ここではこれらについてさらに掘り下げていきましょう。
特定の活動に特化したトレーニングを受けた体の特徴
それぞれ異なる方法で鍛えられた身体は、発達させてきた活動の種類やスタイルが特徴として現れます。
特定の活動に特化したトレーニングを続けるとその活動に適した身体の特徴になっていきますが、場合によっては過剰に型にはまってしまい、私たちが本来持っている動作のポテンシャルをすべて奪ってしまうことがあります。
だからこそ、私は専門性の高いアスリートに対して、機能的な動作パターンをバランスよく維持することをアドバイスしています。
全ての動作パターンをトレーニングする必要はなく、重要なのはそれらを維持することです。
機能的な動作パターンが失われると、バランスの取れた身体の基盤にひびが入る前兆となります。
専門化自体が悪いわけではなく、重要なのは特定の活動に過剰に適応しすぎてバランスを失うことが問題であるということです。
パワーのバランスを考慮したトレーニング
優れたストレングスコーチは、パワーのバランスに関心を持っています。
彼らの焦点は動作パターンのバランスにあるわけではありませんが、少なくともバランスには配慮しています。
彼らはパフォーマンスのバランス、プッシュとプルなどの能力に見られる基本的なバランスを重視しています。
これが直感的な判断でわかるのは、私たちの動作パターンは対向するパターンから成り立っているからです。
理学療法の学校では、スパイラルと対角線の固有受容性神経筋促通法(PNF)パターンが、身体の中心を軸として頭に向かって動く動作(feeding patterns)と、頭から離れていく動作(protection patterns)を表していると説明されました。
パンチや投げる、振るなどの動きがこれらの基本的なパターンから成り立つ様子がわかりやすいです。
プッシュとプルの動作のバランス
優れたストレングスコーチやトレーナーは、プッシュとプルのパターンをしっかりと確立することで、より専門的なパターン(両方を組み合わせたもの)を支える土台が築かれることも理解しています。
私はこれまで、リフトをプッシュ、プル、そしてコンビネーションに分類してきました。
それは、「単一の筋肉だけを使ったリフト」という考え方から抜け出すためです。
基本的に、プル動作とプッシュ動作は同じ筋肉を異なる方法で使用します。
動かす筋肉と安定させる筋肉の役割は、しばしば逆転しています。
最高のリフトは常に全身の筋肉を使いますが、私たちは依然として主動筋でリフトを分類する傾向があります。
プッシュとプル動作の強さのバランスを取ることで、スポーツの種目に関係なく、安定した身体のプラットフォームを作ることができます。
私からの唯一の注意点は、まず動作パターンを必要十分なものにすることです。
これは私の習慣なのですが、専門家として動きの基本、つまり最低レベルの動作パターンの能力なしに運動を論じるべきではないからです。
つまり、プッシュやプルを鍛えるだけで動作の修正が得られるとは考えないということです。
それらのエクササイズは、ベースとなる適切なムーブメントパターンの上で成り立つコンディショニングエクササイズと考えるべきです。
言い換えれば、FMSの最低ラインである非対称性が少なく各テストで2点以上を獲得できる状態です。
これらの理解が難しければ、まずはこちらの書籍をご確認ください。
『ムーブメント -ファンクショナルムーブメントシステム:動作のスクリーニング,アセスメント,修正ストラテジー』
クリーンとプッシュプレス:シンプルな動作が最適?
いくつかのエクササイズは、下半身でプッシュ、上半身でプルを組み合わせています。
例えば、ストレートバークリーンは優れたエクササイズですが、難易度が高くほとんどの人が一日や一週間で習得することはできません。
これに対して、プッシュプレスは下半身と上半身のプッシュで相乗効果を生み出しますが、フォームの取得がはるかに簡単で多くの方が一回のセッションで習得可能です。
実際のところ、プッシュプレスは「プレスを最適化(誤魔化)している」のではないでしょうか?
私たちは生まれながらにして物事を最適化(誤魔化す)する方法を学びます。
それなら、なぜその方法を活用しないのでしょうか?
この方法を提案すると、よく反発や懐疑的な意見として、「パワーと素早い足の動きが必要だからクリーンを教えないといけない」と言われることがあります。
ただ、それぞれのエクササイズの脚だけを動画で撮影してみると、上半身が見えない場合、どちらのリフトをしているかわかりません。
プッシュプレスとクリーンの脚の動きはほぼ同じです。
もし、パワーと速い脚の動きを得たいのであれば、なぜあえて複雑な動作を選ぶのでしょうか?
プッシュプレスはダンベル、ケトルベル、ストレートバーを使って実施でき、クリーンと同じような効果が得られます。
さらにフォームも取得しやすく動作も学習しやすいうえに手首への負担も軽減されます。
より安全で簡単に同じ効果を得られるのであればどちらを選択するかは考えるまでもありません!
成功のための手順
1.スクワットのメカニクスが適切かどうか確認しましょう。
2.膝を伸ばした状態でのプレスの最大重量を把握します。
3.少し重量を追加し、少しだけ「最適化(誤魔化し)」を許容しましょう。
結論:バランスを取ったトレーニングの大切さ
1.基本的なコンセントリックプレスよりも重い重量でエキセントリックトレーニングの準備をしてください。
2.エキセントリック動作を正しく行うことで、肩とコアの安定化反応を生み出すことができます。これらは特に安定性が求められる部位です。
3.ダンベルやケトルベルを使用すると、左右の非対称性が明らかになります。プッシュ動作と重りを下げる動作でそれを見つけてください。
プッシュ動作では、主に前部の筋肉群、プル動作では後部の筋肉群が主に活用されます。
しかし、これにこだわりすぎないようにしましょう。
確かに主に活用される側が動きを生み出しますが、反対側はブレーキの役割を果たします。
良い運転には、アクセルとブレーキが必要で、更にそれらを正しいタイミングで使うことが重要です。
とはいえ、街中のジムではプル動作はあまり人気がなく実施されていないのが現実です。
おそらく、前部の筋肉群は鏡で簡単に自分の姿を確認できるため、プッシュ動作が人気になるのでしょう。
それでも、本当のトレーニングの愛好家はプル動作の重要性を理解しています。
プルアップやデッドリフトは、ベンチプレスやスクワットに隠れがちですがプルの基本動作です。
最近ではケトルベルスイングやスナッチも人気ですが、これらは決して新しい動きではなく、現代人が発明したわけでもありません。
これらは古くからある動作で、情報の発信元によってその価値が認められたり、軽視されたりしています。
スイングやスナッチのプル動作は主にデッドリフトに由来しています。
私たちはそれらの重要性を示すためにデッドリフトは最初に学ぶべき動作であり、スタート地点としています。
良いデッドリフトをベースとしてスイングやスナッチを行ってみると、どれだけ効果が高まるか実感できるでしょう。
段階的な負荷
1.デッドリフト
2.ヘビーデッドリフト — ほとんどの人が、良いフォームに改善すると元のデッドリフトの重量から25〜50%向上させることができます。
3.スイング
4.ヘビースイング — ほとんどの人が、良いフォームに改善すると元のスイングを25〜50%向上させることができます。
5.スナッチ
ケトルベルスナッチは、華やかで速く、魅力的なオーバーヘッドリフトで、多くの人が初めて見るとすぐにやりたくなります。
しかし、ケトルベルをきれいに頭上にに持ち上げるために使う筋肉のほとんどは、腰から下の後部筋群にあります。
簡潔に言うと、デッドリフトとスイングをしっかりと習得していれば、スナッチを学んだときにケトルベルは自然に頭上へ浮かぶようになります。
優れた基盤を作るためのレシピ
良いスクワットの動作パターンをリフトに変え、さらにその良いスクワットのリフトをプッシュプレスに変えることで、優れたプッシュ動作の基盤を作ることができます。
良いデッドリフトの動作パターンをリフトに変え、さらにその良いデッドリフトをスイングに変えることで、優れたプル動作の基盤を作ることができます。
これが高校のフットボールチームのトレーニングや、クライアントとトレーニングしている場合でも、または単純にプッシュとプルのパフォーマンスのバランスを取ろうとしている場合でも、これが安全かつシンプルで最初に取り組むべきことであり、最も優れた方法です。
プッシュ・プルのバランスを見つける
私たちの多くは、感覚的にプッシュとプル動作のいずれかに親和性を持っていて、どちらかをより自然な動作に感じます。
その理由は一つではありません。まずは身体の大きさやさまざまな部位の角度、四肢の長さが最初の焦点になります。
それから姿勢や筋肉の方向性、スポーツなどの活動歴、障害歴も重要な要素です。
そして特にプッシュとプルの動きの間での呼吸にも注意を払いましょう。
目に見えて上手く、心地よく感じる動作は、特定の呼吸パターンを持っていることに気付くはずです。
また、適切な呼吸と圧力をかけることで、ぎこちなく感じる動作が改善されることにも注意を払いましょう。
Gray Cookが創設したFMS(Functional Movement Screen)およびSFMA(Selective Functional Movement Assessment)を日本で学びたい方はFMS Japanのブランドサイトご確認ください。
https://www.functional-inc.co.jp/fms-japan/seminars/