Trainer's Journeyと題し、新たにスタートしたシリーズ企画。
この企画では、精力的に活動されている若手・中堅トレーナーの皆さまにお話を伺い、ご自身の指導で大切にしていることや、そのように考えるようになったきっかけ、今後挑戦したいことなどを深掘りしていきます。
第一弾は、FLUX CONDITIONINGで5年間勤務されたのちに独立し、現在はフリーランスのパーソナルトレーナーとして活動されている重成 悠馬(しげなり ゆうま)さんにお話をお伺いしました。
|SP専門学校→航空自衛隊を経て、トレーナーの道へ
ーこれまでの経歴と現在のお仕事について簡単に教えてください。
トレーナー活動の始まりは、専門学校時代のドームアスリートハウスでの2年間のインターンでした。契約選手のみを対象としていたため、トップアスリートのトレーニングサポートをメインに行っていました。その中で、僕の師匠にあたるトレーナーさんからお声掛けいただき、卒業後はFLUX CONDITIONINGで働かせていただくことに。5年間勤務した後に、パーソナルトレーナーとして独立。クライアントの指導と並行して、専門学校で解剖学やトレーニング科学の講義も行っていた時期もありました。
現在はフリーランスのパーソナルトレーナーとして、トレーニング指導はもちろん、高校生サッカー部の指導、自宅でのボディコンテスト出場者のトリートメントや企業向けセミナー、パーソナルジムの開業支援などを行なっています。開業支援はコンサルティングのようなイメージで、提供プログラムを一緒に考案したり、動画教材を作成・提供することで人材育成のサポートも行なっています。
ーかなり幅広く活動されていますね。トレーナーはいつから目指されていたんですか?
実は最初からトレーナーになろうと思っていた訳ではなかったんです。元々はドラマで見たSPがカッコよくて、そのための専門学校に行っていました。身長や体重の基準はクリアしていたし、格闘技もやっていたからちょうどいいかなって。ただ試験に落ちてしまい、航空自衛隊に入隊することに。仲の良い教官といろいろ調べて「こうやったら筋肉がつくらしいですよ」とか言いながら身体を鍛えていたんですが、ある時ふと「こういうことを仕事にできないかな?」と思って調べてみたら色々な専門学校があることが分かり。そうしてやっと今の方向性に落ち着きました。
|一般の方の身体作りから、アスリートのケアまで広くサポート
ー普段のトレーニング指導についてもう少し詳しく教えてください。
一般の方からアスリートの競技パフォーマンスアップまで担当しています。ベース考え方は同じで、まずは歪みや弱いところを整えリセットをする、そしてある程度整ったら適切に力が伝わるようにトレーニングを行い、その後力そのものを強くするフィジカルベースのトレーニングにシフトという流れで進めています。アスリートに関しては、カッピングなどの治療に近いことも行なっていて、身体の調整やケアの部分も含めて全般的にお任せていただいる方も多いです。
ーアプローチで意識していることはありますか?
まずはリセット、そして呼吸を適正化することを心がけています。呼吸が整うと、頭もクリアになって頭に入りやすくなるというメリットも。それから、世の中ではまだ1軸でのトレーニングが主流ですが、回旋も意識してトレーニングに取り入れています。これは近藤拓人さんの感覚運動科学のセミナーで「まっすぐ歩行している人間も実は回旋している」という事実に衝撃を受けたのがきっかけです。その後、回旋をトレーニングへどう取り入れるか悩んでいた時に、デイビッド・ウェック考案のトレーニングメソッドRMTの研修を受けたんですが、それによって自分が探していたピースが見つかったような感覚があり、いまの指導の型が出来上がりました。
|悔しさをバネに。クライアントとの “信頼関係”の重要性
ー指導する中で大切にしていることはありますか?
“信頼関係”ですね。トレーニング指導を行う上で一番大事だと思っています。やっぱり不信感を抱かれると出る効果も出ないんですよね。僕は実際にそれを感じたことがあって。
20代の頃に担当していたクライアントで、僕の言葉をなかなかストレートには聞きいれてもらえない方がいて。この方の知り合いに、たまたま僕と全く同じことを言う有名な大学の教授の方がいたんです。そのことをきっかけに、僕の言うことに対しても聞く耳を持ってくださるようになったんですが、今までとやっていることは同じはずなのに効果がまるで違ったんです。その時にトレーニングの効果を最大化するには「コミュニケーションや信頼関係ってすごく大切だな」と実感しましたね。
ートレーナーとしては非常に悔しいエピソードでもありますね。
そうですね。学びがあった反面、当時はかなり悔しかったです。当時勤めていたジムは、代官山という土地柄もあり、経営者のクライアントが多くて。年齢的にも若い、人生経験も浅い、経営についても分かっていない僕の話はなかなか聞き入れてもらえなかったんですね。けれども、大学教授のようなすごい肩書きの人が言えばあっさりと受け入れてもらえる。その事実を目の当たりにして「まだまだ自分には、知識や指導力も足りないし、説得力もないんだな」と痛感しました。そこからは、勉強するペースも自然と上がっていきました。悔しいから勉強して、勉強するとクライアントにそれが伝わり信頼され、信頼されると自分にも自信がついてさらに自分の立ち振る舞いや考え方も変わって、それが嬉しくてまた勉強して…という良い循環になっています。
|エビデンス重視での、セミナー選びやインプット
ー重成さんは普段からかなりお勉強されている印象ですが、この出来事をきっかけにインプットの方法にも何か変化はありましたか?
医学書を自分で読むようになりましたね。元々は毎週末セミナーに行ってというのが中心だったんですが、僕らみたいな若い人間がいける範囲のセミナーだと自分と同じトレーナーさんが行うものがほとんどで。もちろん、それもすごく参考になるんですけど、徐々に講師の方が提示するエビデンス自体が徐々に気になるようになりました。
やっぱり自分の相対する一般の方、特に経営者層の方に伝えるのであれば「業界で有名なトレーナーさんが言っていた」よりも「有名な大学の〇〇教授がこう言っていた」という方が納得感を持ってもらいやすい。自分の発言に説得力を持たせるという意味でも、エビデンスに基づく事実ベースで書かれた書籍や論文を選んで読み込むようになりました。今では本棚が医学書で埋まっています(笑)
ー医学書や論文といえば外国語で書かれているものも多くありますが、何かご自身で工夫されていることはありますか?
僕は日本語しか読めないので基本的に日本語で書かれたものを選ぶんですけど、論文なんかはやっぱりアメリカなど海外の方が最先端であることが多いので、最近はChatGPTを活用しながら読んでいます。ChatGPTで全文翻訳→自分で重要な部分を抽出→そこをさらにChatGPTに要約してもらうといった、3ステップでの学習が気に入っています。
ーセミナーにもよく行っているとのことでしたが、セミナーを選ぶときに意識していることはありますか?
セミナーを受けてもっと詳しく話を聞いてみたい、この人の話には信憑性があるなと感じたら別のセミナーも受講ということが多いです。また、最近は論文などを読み進める中で見かけた方のセミナーがあれば参加するということも増えてきました。自分は色々と受けていたんですけど、いま若い子に「どんなセミナーを受けたらいいか?」と相談されたら、信頼できるビッグネームのトレーナーさん、たとえば近藤さんや根城さん、桂さんなどを挙げて、ある程度名指しでおすすめすると思います。ただ、若い頃はあまりスコープを絞りすぎないことも大事だと思っているので、あくまでも提案という形で伝えますね。
ーセミナーで見聞きした話は、日々のトレーニング指導にどのように落とし込んでいますか?
まずは自分で徹底的にやってみますね。「自分ができないことをクライアントに絶対にしない」というのがポリシーなので、まずは完璧に自分自身ができるように練習します。そのあとに、後輩やトレーニングの勉強をしたい子を相手に「こういう人にはこんなアプローチが有効だと思う」と自分なりの解釈も添えながらアウトプットの練習をしています。自分に染み込み、かつ納得できたら実際のクライアントのトレーニングに取り入れるということを大事にしながら、日々アップデートしています。
|今後の目指す姿
ー憧れのトレーナー像はありますか?
僕をFLUX CONDITIONINGに誘ってくれた師匠にあたる方です。どうやっても追いつけないなと思います。知識量もすごいし、僕が1聞くと1,000くらいで返ってくる。それくらい段違い。そして知識だけではなくて、クライアントとの信頼関係の築き方も見ていてすごいと感じますね。クライアントとの間にうまく入り込んで、パートナーであり友達でもあるようなそんな関係性。ベースの信頼関係があるからこそ、クライアントの身体もみるみる変わっていく。僕は優秀なトレーナーに必要な要素として、勉強・熱心・勤勉は当たり前、コミュニケーション能力も同じかそれ以上に大切だと思っていて、師匠はそれをまさに体現している方。だからやっぱり憧れますね。
ーチャレンジしたいことはありますか?
スポーツに取り組む学生たちが、技術や戦法以外のベースで優劣が決まってしまう現状を変えたいと思っています。僕はずっと野球をやっていたので野球に例えて話すと、強い学校は公立には少なくて圧倒的に私立が多い。それって私立の方が資金力があるから、良いコーチやトレーニング設備が整っているという「環境」による要因が大きいと思うんです。いまの構造では、技術や戦法の差ではなく、それ以前の問題で勝敗が決まってしまう。それって不公平だなと。僕は野球の仕方は教えられないけれど、トレーナーとして僕が今まで勉強していたトレーニング方法は教えることができる。僕の力で試合前のベースラインを公平に近づけたいと思っています。
例えばアプリを使って学生が自由にトレーニング方法を見て実践できる、友達にも簡単に共有できる。そんなことができないかと思っています。そのためには、トレーナーとしての技術や知識はもちろん、ある程度の箔も必要だと思うので、自分自身がトレーナーとしてもっと上のレベルを目指していきたいですね。
ーインタビューへご協力いただきありがとうございました。
|プロフィール
重成 悠馬(しげなり ゆうま) 30歳
専門学校時代のインターンを通してトレーナー活動を開始。その際に自身の師匠にあたる方から誘いを受け、FLUX CONDITIONINGにスタッフとして5年間勤務。その後、独立してパーソナルトレーナーとして活動をする傍らで、専門学校で解剖学やトレーニング科学の教鞭を取った。現在は、パーソナルトレーナー、高校生サッカー部の指導、ボディコンテスト出場者のトリートメントや企業向けセミナー、パーソナルジムの開業支援など幅広く活動を行っている。